宇宙開発のボラティリティ

満身創痍のISSに降りかかる危険 宇宙ステーションの重大インシデント (2/3ページ)

鈴木喜生
鈴木喜生

 この機体の回転によってISSが軌道から外れることはなかったようだが、ただし、太陽電池パネルが適切な角度になければ発電できず、この事態が長引けばさらなるトラブルが発生した可能性は高い。また、今回のような想定外の力が機体に加われば、その構造にダメージを与える可能性もある。最悪の場合は搭乗員がドッキングしている宇宙船に乗り込んで脱出するが、ISSが回転している限り、アンドッキング(離脱)も難しいだろう。

ボロボロのISSと、ロシアの機材トラブル

 ISSにおけるトラブルは少なくない。

 その原因にはさまざまあるが、とくに顕著なのはロシアの機材に発生する不都合と、近年ではISSの老朽化によるものといえる。

 ISSの建設は1998年にはじまった。当初ISSの設計寿命は2016年までとされていたが、実際には、メンテナンスを重ねることで幾度も運用期間は延長されてきた。現在、ロシアはISSの運用を2025年で終了しようとしているが、欧米、日本などは2030年まで、その退役時期を延長しようとしている。つまり、ISSは当初予定よりも2倍もの期間、活用される可能性があるのだ。

 しかし、すでにISSは満身創痍だ。

 2019年9月には、ISS船内の気圧がわずかに低下し続けるという事態が発生している。

 調査の結果、問題はロシアのモジュール「スヴェズダ」にあった。これはISS建設の初期、2000年に打ち上げられたモジュールだ。ISSは巨大で、構造が非常に複雑なこともあり、その漏洩箇所を特定するのになんと1年以上の歳月が費やされている。

 それ以前では2018年8月にもISS船内からの空気漏れが発生している。その原因は、ドッキングしたロシアの有人宇宙船「ソユーズMS-09」に空いた直径2mmの穴だった。当初ロスコスモスは、それは微小隕石によって空いたものと公表していたが、その後の調査により、機体製造時にできた可能性が高いと考えられている。

 ロシアはこのトラブル発生から2ヵ月後、通常3名の搭乗員をひとり減らして後続の宇宙船「ソユーズMS-10」を打ち上げた。ISSに残されたクルー3名のうち、まずは1名を帰還させることができるプログラムだ。しかし、なんとこれが打ち上げに失敗。ソユーズFGロケットの第一段を分離した際、それが本体に接触したのだ。

 搭乗員2名は緊急脱出して助かったが、ISSに滞在するクルー3名に救護は来ない。打ち上げ失敗の原因がわからなければ、次の一機も打ち上げられないのだ。

 結果、ISSに取り残されたロシアのクルー3名は、専用の接着剤とテープによって穴を埋めたMS-09に搭乗して地球に帰還している。スペースシャトルは退役し、クルー・ドラゴンもデビューしておらず、ISSまでヒトを運べるのはソユーズしかない時期でもあった。

【ソユーズMS-10の事故】

 今回トラブルを起こしたナウカは、実は2007年に打ち上げ予定だった。しかし、設計ミスなどによって開発が遅れ、打ち上げ後もスラスターなどに不具合が発生していたのだ。定期的にこうしたトラブルを発生させているロシアへの信頼は、いま大きく揺らいでいるといえる。

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