ラーメンとニッポン経済

1988-バブルと美食の時代に 「無化調」ラーメンの風が吹く (4/4ページ)

佐々木正孝
佐々木正孝

■かつて無化調の旗を高らかに掲げた、あの店は-?

 今、吉祥寺に足を向けても、『一二三』の味を堪能することはかなわない。創業者・匠ゆうじを継いだ2代目店主が腕をふるっていたが、持病の悪化から2011年に閉店。弟子が『らぁめん一二三 那由多』としてリニューアルするも、その後ひっそりと幕を下ろしている。

 「無化調」というフレーズがラーメン論壇に飛び交っていた90年代末期。筆者は『一二三』を訪れたことがある。五日市街道沿いにありながら、目立たない外観だった。入り口脇に、円空仏のように無造作に置かれた小さな看板。足を踏み入れると、煮干し、カツオ節の香りがふわっと香った。

 目の前にトンと丼を置くのは、コックコートを着た主。「一二三そば」。紅の丼は、匠ゆうじの薀蓄によると「スープを張る時の温度が78度、最後に飲み干す時の温度が58度に設定」されているというが、それを確かめる術はない。口に運べば、和の面持ちを感じるスープ。鶏のコクがやさしくラーメン感を主張した。かん水を使わず、そば粉と小麦粉で打つ麺は日本そばとラーメンのミクスチャーか。

 『美味しんぼ』の惹句のような派手なフレーズは似合わない。ただやさしく、そして滋味深い。何とも、旨いラーメンだった。

佐々木正孝(ささき・まさたか)
佐々木正孝(ささき・まさたか) ラーメンエディター、有限会社キッズファクトリー代表
ラーメン、フードに関わる幅広いコンテンツを制作。『石神秀幸ラーメンSELECTION』(双葉社)、『業界最高権威 TRY認定 ラーメン大賞』(講談社)、『ラーメン最強うんちく 石神秀幸』(晋遊舎)など多くのラーメン本を編集。執筆では『中華そばNEO:進化する醤油ラーメンの表現と技術』(柴田書店)等に参画。

【ラーメンとニッポン経済】ラーメンエディターの佐々木正孝氏が、いまや国民食ともいえる「ラーメン」を通して、戦後日本経済の歩みを振り返ります。更新は原則、隔週金曜日です。アーカイブはこちら

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