諸外国の動きと遺留分廃止論
こうした疑問は、決して私だけが抱いているわけではありません。諸外国でも、遺留分に対する疑問が提示されているのです。例えばドイツでは、被相続人の財産処分の自由を侵害するなどの理由から、遺留分制度に対する強い批判を受けて、遺留分の効力を弱める方向での法改正が今、検討されています。さらに、フランスでも、2008年の法改正で亡くなった人の父母の遺留分が廃止されました。遺留分制度は“オワコン”とまで言わないまでも、見直す必要に迫られているのです。
日本でも若い学者を中心に、遺留分制度廃止論が投げかけられています。遺留分制度は意味を失っているという理由だけではなく、家族制度との関係でも危惧されているのです。つまり、家族の財産が平等に細分化されることによって、家族から個人へと財産が散っていってしまう。それはつまり経済的な側面で家族を解体することに繋がるのではないかという危惧です。これは先述した昨今の遺留分制度の法改正でのフォローでは全く不十分です。
私は、現場を見る者として、こうした危惧が決して杞憂ではないと断言します。特に中小企業の経営者が財産を残す際、会社を維持することが困難になるケースも多く、中小企業が経済を下支えしてきた我が国において、こうした状況が慢性的に生じているのは極めて憂慮すべきことです。こうした状況において、現在の遺留分制度は確かに改められる必要があるように思います。
一方で、遺留分制度を廃止せよというのは行き過ぎだと思います。先ほどの例で言うと、例えば愛人に全財産を残すことがまかり通る世の中というのは、どうも釈然としないでしょう。また、少なくなっているとはいえ、成人前の子供で生活保障を必要とする相続人だって確かに存在します。
結論として、私は遺留分の割合を減らしたり、権利行使できる対象者をより限定したりするなどの法改正は必要だろうと思います。しかし、廃止には反対します。遺留分についてのこうした議論は今のところあまり盛り上がっていないように思います。しかし、高齢社会が着々と進行する中で、早期にこうした問題点に着目し、議論を進めて頂くことが、日本社会にとって非常に重要だろうと思う今日この頃です。
【まさかの法的トラブル処方箋】は急な遺産相続や不動産トラブル、片方の親がもう片方の親から子を引き離す子供の「連れ去り別居」など、誰の身にも起こり得る身近な問題を解決するにはどうしたらよいのか。法律のプロである弁護士が分かりやすく解説するコラムです。アーカイブはこちら