大変革期のモビリティ業界を読む

限界を迎える日本型社会保障…高齢化社会のモビリティサービスを考える (2/2ページ)

楠田悦子
楠田悦子

 高齢者が楽しく自分らしく生きる街に

――今の75歳以上の後期高齢者と、60代では大きく価値観が異なり、求めるモビリティサービスも変わってきそうだ

後藤氏:

 高齢者は3歳おきに価値観が異なり、他の世代と一緒にされたくないと感じている。10歳違えば3世代くらい異なる。

 高齢者は何歳の感覚でいるのか、「年齢割る2プラス15」という計算式がある。例えば、60歳の高齢者は45歳、70歳の人は50歳の感覚でいる。だから年齢では高齢者でも、本人は高齢者だと思っていない。自分の上の世代の高齢者像を勝手につくって企画した福祉施策がたくさんあり、そういった施策は上手くいっていない。

 「私の人生はエンターテイメントだ」と語るような、歳を重ねても美しく、気持ちが若い高齢者が増えてくる。女性がわくわくドキドキするような社会が10~15年でやってくると思っている。そこにモビリティサービスが貢献できるだろうか。

 昭和的な公共交通では乗ってもらえない。発想を変える必要がある。例えば、エンターテイメントなどのマーケティングの専門家と考えるような取り組みが必要だろう。

――地域包括ケアシステムの中のまちづくりはどのような位置づけなのか

後藤氏:

 要介護状態になっても自宅で暮らせるように、サービスを届けるといった発想の地域包括ケアシステムが大切になってきている。高齢者の人口が増える中で、病床にも限界があるからだ。

 地域包括ケアシステムは立場によって考え方が3つに分かれる。病院と同じ医療のクオリティを在宅でも実現しようとする「Integrated care system(多職種連携)」。老人福祉の考え方で1日3食、朝晩の声掛けと、病院などまでの送迎を重視する「Community care)。そしてもう一つが、自宅や仲間や生きがいといった地域資源を包括的に使って暮らす「Comprehensive community care system)で、都市計画がここになる。

 ところが、地域包括ケアシステムに関連する委員会が立ち上がると、3つ目の都市計画の先生には声がかからない。少しずつ浸透しつつあるが、既存の地域資源を使いながら高齢者が楽しく自分らしく生きる街にすることに、まだまだ重きが置かれていないように感じる。

心豊かな暮らしと社会のための移動手段・サービスの高度化・多様化と環境を考える活動に取り組む。自動車新聞社のモビリティビジネス専門誌「LIGARE」創刊編集長を経て、2013年に独立。国土交通省のMaaS関連データ検討会、自転車の活用推進に向けた有識者会議、SIP第2期自動運転ピアレビュー委員会などの委員を歴任。編著に「移動貧困社会からの脱却:免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット」。

【大変革期のモビリティ業界を読む】はモビリティジャーナリストの楠田悦子さんがグローバルな視点で取材し、心豊かな暮らしと社会の実現を軸に価値観の変遷や生活者の潜在ニーズを発掘するコラムです。ビジネス戦略やサービス・技術、制度・政策などに役立つ情報を発信します。更新は原則第4月曜日。アーカイブはこちら

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus