北欧など飲み頃 温暖化でワイン産地北上

 

 地球温暖化で欧州のワインの産地が北上している。寒冷な気候でワイン造りに不向きとされてきた北欧スウェーデンでブドウの栽培が拡大、山国スイスでも年々品質が向上している。一方、伝統的な産地である南欧スペインやイタリアは品質低下や干魃(かんばつ)に苦しめられている。

 酸味と糖のバランス最適

 なだらかな丘に一面のブドウ畑が広がる。9月に訪れたスウェーデン南部マルメ近郊。「温暖化は世界的にはうれしい話ではないが、スウェーデンのワイン農家にとっては朗報だ」。畑を所有する男性、ホーキャン・ハンソンさん(63)が白い歯を見せた。

 日本の9月に比べると肌寒く風も強いが、ハンソンさんは「数十年前ならこの時期は枯れ葉が落ち始めるころだったが、今はこんなに緑が広がっている。温暖化の傾向は間違いない」と話す。

 ワイン好きのハンソンさんが故郷でブドウ栽培を始めたのは2003年。当時は周囲から「冗談か」と相手にされなかったが、ブドウは順調に成長し、08年にはワインの商業販売を開始。酸味が強めの独特の味は評判を呼び、近くロンドンに輸出される予定だ。「和食に合う味だ。将来は日本にも輸出したい」とハンソンさん。18年には現在7ヘクタールのブドウ畑を11ヘクタールにまで拡大させる方針だ。

 ブドウは気温が上がると糖分が増し酸味が減る。夏に高温で雨が少ない地中海性気候が最適とされてきたが、温暖化でスウェーデンのブドウは酸味と糖分のバランスがちょうど良くなってきているとハンソンさんはみている。今ではスウェーデンの若い世代が次々とワインの生産を始めているという。

 南欧の農家は受難

 スイスのワインも品質の向上が指摘されている。スイスでは過去100年で平均気温が1.6度上昇。スイスの農業研究機関、アグロスコープのビビアン・ズフレー研究員は「以前よりワインが熟成されるようになった。特に7月が記録的に暑かった今年の品質は最高だ」と話す。

 逆にスペインやイタリアのワイン農家にとっては受難だ。ハンソンさんは「南欧のワインは糖分が増え過ぎて『アルコールの強いレモネード』みたいになっている」と説明する。スペインでは暑さを避けるため、標高1000メートル級のピレネー山脈の地帯に畑を移す農家もあるという。

 ただ、ハンソンさんも、今後ワイン造りを軌道に乗せられるかどうかを判断するには「あと2、3年は様子を見る必要がある」と慎重だ。

 ズフレー氏も「年によって冷夏だったり多雨だったりして気候は不安定だ。来年どうなるかは誰も分からない」と過度な楽観論にくぎを刺した。(共同/SANKEI EXPRESS

 ■温暖化と食料生産 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、熱帯および温帯地域のコムギ、コメ、トウモロコシについて、世界の平均気温が20世紀終盤の水準より2度以上上昇した場合、一部の場所では生産性が向上する可能性がある。ただ全般的には気候変動に適応しなければ生産に負の影響を及ぼすと予測される。一方、4度以上上昇すれば、食料需要が増えている現状では、世界規模での食糧安全保障に大きなリスクをもたらすこともある。(共同/SANKEI EXPRESS