“噴飯もの”OPEC願望予測にビックリ 科学技術や温暖化防止など考慮せず
中東などの産油国でつくる石油輸出国機構(OPEC)が発表した2015年版の「世界石油見通し(WOO)」の中で示された将来の車種別販売台数の予測が、あまりにもOPECの希望的展望が反映されているとして、関係者から「噴飯ものの予測」とあきれられている。
電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)の普及はほとんど進まず、25年後の40年の段階でもガソリン自動車(ハイブリッド車を含む)が世界中で94%のシェアを占めるというものだが、科学技術の進歩や各国政府の温暖化防止に向けた政策目標などがほとんど考慮されておらず、驚きの声すら上がっている。
「原油価格は95ドル」
今年のWOOは23日に発表され、OPECは現在1バレル30ドル台にまで下落している原油価格が20年に1バレル=70ドル、40年には95ドルになると予測した。そして、ほぼ400ページに及ぶWOOの中で、17ページを割いて世界の車種別販売台数の将来予測を行った。
予測の要旨は、(1)40年の時点でガソリン車は、ハイブリッド車の14%を含めて世界市場の94%を占める(2)EVのシェアは1%にとどまる(3)FCVや天然ガス車の普及はほとんど進まない(4)ガソリン車の燃費は格段に向上するが、新興国での車両台数の増加によってガソリン需要は40年の時点で17%増える(5)原油需要の40%以上は現在も25年後も自動車が占め、原油価格は今後ほぼ年平均5%の割合で上昇し続ける-などというものだ。
EVやFCVが普及しない理由としては、(1)高コストが改まらない(2)充電所や水素充填(じゅうてん)施設の整備が追い付かない-ことを挙げている。つまり、25年経ってもEVやFCVを取り巻く環境は変わっていないと予測しているわけだ。
しかし、これは国際常識とは大きく異なる。先にパリで開催された第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で温室効果ガスの排出量削減目標を出し合った各国政府は、基本的にEVやFCVの普及を進めるスタンスだ。
日本の経済産業省の予測では、世界市場でのシェアは30年時点でガソリン車80%(ハイブリッド車42%を含む)、EV8%、FCV2%であり、50年時点ではガソリン車56%(ハイブリッド車50%を含む)、EV23%、FCV18%となっている。35年後には純粋なガソリン車は6%にすぎず、EVとFCVの合計が4割を超すという見通しだ。
40ドル割れ、牛乳より安く
スペインのモータージャーナリスト、セバスチャン・ブランコ氏は自身のブログにOPECの見通しについて「まともに取り合うのがバカらしいほど、見当違いの予測だ」とコメントしている。
OPECがここまで酷評される予測をしたのには、背に腹は代えられぬ事情がある。原油価格はつい1年半前までは1バレル100ドルを超えていたが、中国経済の減速などで世界的な原油需要が落ち込み、一気に40ドルを切る水準にまで急落。
本来ならば、減産で価格を戻したいところだが、米国のシェールオイル・ガスとのシェア争いで劣勢になることを避けるため、減産は見送っている。価格は当面、戻りそうになく、米国では現在、ガソリン価格(日本と異なり高税は含まれない)が牛乳よりも安い状況だ。
OPEC各国は現在、原油価格が1バレル80~90ドルの水準で推移するとみて国家予算を編成しており、40ドル切りではにっちもさっちもいかないのが現実だ。少しでも原油需給で明るい未来を描き、投資家や自国民の心を和ませないと、それこそ政権が持たないとさえ言える。今年のWOOは、かつて「世界最強のカルテル」と言われて恐れられたOPECが貧して鈍した証左であろう。(SANKEI EXPRESS)
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