(上) 花の都からブランド発信

パリ羊羹コレクション
パリ羊羹(ようかん)コレクション会場を訪れた男の子のために猫をモチーフにしたアニマル上生菓子を作る青柳正家(東京都墨田区)の須永友和社長=2016年3月20日、フランス・首都パリ・マレ地区(田中幸美撮影)

 「素材は何ですか」「その色は何でつけるのですか」「まるで陶器みたい」…。

 巧みな手つきで美しい上生菓子を作る日本の和菓子職人に、矢継ぎ早に質問が飛んだ。手元を食い入るように見つめたまま動こうとしない人もいる。

 パリで行われた羊羹(ようかん)をPRするイベント「YOKAN COLLECTION IN PARIS(パリ羊羹コレクション)」での和菓子作りのデモンストレーションの光景だ。

 パリ羊羹コレクションが、羊羹で有名な虎屋(東京都港区)や米屋(千葉県成田市)など全国11の和菓子店とパッケージデザインを手がける「アンゼン・パックス」(東京都港区)、和菓子の材料の寒天を取り扱う「伊那食品工業」(長野県伊那市)の主催で今月17~20日、パリ中心部に近いマレ地区にある3階建てのギャラリーを借り切って開催された。日本の食文化の一端を担う和菓子の魅力を発信するとともに、羊羹を「YOKAN」ブランドとして世界にPRして販路を拡大するのが狙いだ。4日間の会期中、予想を大幅に上回る2315人が訪れるほどの大盛況ぶりで、パリっ子たちに大いに羊羹を印象づけた。

 会場では、食べやすい大きさに切られたさまざまな試食用の羊羹が黒いお盆に乗せられて配られたほか、羊羹の歴史をはじめ道具や材料などの展示、参加11社の羊羹を紹介するディスプレーも設けられた。訪れた人々は熱心に展示を見たり、スマホで撮影したり、試食の羊羹を味わったりしていた。

 学生時代に日本語と韓国語を勉強し、桜餅やうぐいす餅が大好きというカティア・ドュニさん(45)は、「日本食はとても健康にいい。私のように羊羹が好きな人はたくさんいます」。一方、「見た目はモノトーンでいろんな味があるわけではないので、初めての人は反応が鈍いかも」と話した。そして、「フランス人にも羊羹を好きになってほしい」と笑顔を見せた。

 ≪食に敏感な土地 受け入れられた「甘い豆」≫

 パリ羊羹(ようかん)コレクションが行われたマレ地区は、16~18世紀の歴史的建造物が残る一方、意欲的なアートギャラリーや最新のブティック、レストランなどが立ち並ぶ人気のエリアだ。会場のあるマレ地区の北部は、特に食に関心の高い人たちが集まる地域として知られ、パリで最も古い歴史を持つマルシェ(市場)「アンファン・ルージュ」は目と鼻の先だ。

 さらに、観光地以外の商店はすっかり閉まる習慣のあるフランスで、この地域は日曜営業の店が比較的多い。主催者側は、食べ物に敏感なフランス人がマレ地区に繰り出して、羊羹コレクションにも足を運んだと分析する。4日間の開催だったが、土日は津波のように人が押し寄せ、特に生菓子作りのデモンストレーションが行われたフロアは立錐(りっすい)の余地がないほどの来訪者で埋まった。パリ在住の日本人も多数訪れた。

 フランスでは、豆は粒状のまま煮るなどして塩辛い味付けで食べることが多いため、主催者側は当初、甘い豆に抵抗感があるのではと心配していた。しかし、実際は「どこに売っているのですか」「ここで買えないのですか」という問いかけが相次ぎ、フランスの人たちに好印象を持たれたことがうかがえた。

 虎屋の黒川光晴取締役(31)も「一口食べてウーンとなって、手を引っ込める人は、私が対応した中でもわずか2人くらいで、食べたときに変な顔をする人が少なかったことに逆に驚きました」と話す。米屋の諸岡良和社長(41)も「日本と食文化が違うのに、意外と小豆への拒否感がない」と驚いた様子だった。

 料理とワインの取材をメーンにするジャーナリストのカトリーヌ・テーヌさんは「一度知ったからにはいろいろ食べて、ラジオやブログで積極的に発信したい」と意欲的に話していた。

 黒川さんは「今回の展示の目的は羊羹の印象をよくしたいということ。羊羹が新しくておいしく、カッコいいもの、ファッショナブルなものというプラスのイメージを持ってもらうことができてよかったと思います」と胸をなで下ろしていた。(田中幸美(さちみ)、写真も/SANKEI EXPRESS

 【パリ羊羹コレクション出展11社】

 青柳正家(東京都墨田区)▽小布施堂(長野県小布施町)▽回進堂(岩手県奥州市)▽巌邑堂(浜松市中区)▽廣栄堂(岡山市中区)▽標津羊羹本舗(北海道中標津町)▽鈴懸(すずかけ)(福岡市博多区)▽御菓子つちや(岐阜県大垣市)▽虎屋(東京都港区)▽村岡総本舗(佐賀県小城市)▽米屋(千葉県成田市)