「誰かいないか」。樹木をずらし、何度も声を掛けながら土砂の山を徐々に崩していった。「こっちを先に動かそう」「せーのっ」「もう一回」。互いに声を掛けながら木の幹をどける。根が複雑に絡まり、10人がかりで引っ張ってびくともしないものも。歯を食いしばり、噴き出す汗を何度も拭った。警視庁も救助犬2頭を投入し、生存者を捜した。
岩田桂子さん(72)は昔の職場の上司の安否を確認しに救出現場に駆けつけた。上司は定年後、町議などを務め、2年前からは自宅隣で喫茶店を開き「あとは余生を自由に楽しむだけ」と話していたという。上司の自宅は流され、行方は分からない。岩田さんは「とにかく無事で見つかってほしい」と救出作業を見守った。
日没前、近くのがれきの中から、1人の子供が発見された。幼い女児とみられる。すでに息はなく、地元消防隊員が遺体を毛布にくるみ優しく抱えた。警視庁の車で遺体が運ばれる前、隊員らは手を合わせ、1人が頭をそっとなでた。「何でこんなことになったのだろうね」。救出活動を見守り続けた住民はタオルで顔を覆った。