ソ連崩壊後のロシアが、戦勝国と敗戦国の区別にとらわれず、法と正義の原則で北方領土問題を解決する姿勢を示し、1993年10月に訪日したエリツィン大統領がシベリア抑留問題で頭を下げて謝罪したのも、スターリン主義的な過去から決別することで、国際社会におけるロシアの信頼が確保されると考えたからだ。
論戦に備えよ
メドベージェフ前大統領の時期から、日本との関係でロシア外交にスターリン主義的な色彩が強まってきたが、今回の王毅外相との会談で、ラブロフ外相が、「靖国神社の問題ではロシアの立場は中国と完全に一致する」「(日本に対し)誤った歴史観を正すよう促す」と述べたことにより、ロシアはルビコン川を渡った。北方領土交渉を担当するロシア外務省の責任者であるモルグロフ次官は、中国専門家だ。靖国問題で、対日強硬策に転換することを発案したのもモルグロフ次官と筆者は見ている。今後、モルグロフ氏を長とするロシア代表団は、ソ連が対日参戦する前の45年6月26日に署名した国際連合憲章の対敵国条項に基づいて、ソ連による北方領土の領有を正当化するであろう。もっとも国連憲章が発効したのは45年10月24日なので、それ以前のソ連の活動を国連憲章によって正当化することには無理がある。いずれにせよ、日本外務省は、ロシア外務省が今後挑んで来るであろう論戦に対して、十分な備えをして国益を擁護してほしい。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)