新しい年を迎えた。日本経済はデフレ脱却の兆しが見えたが、多くの人がまだ景気回復を実感できていない。東シナ海では隣国との緊張が高まっている。心配ごとには、きりがない。そんな年明けに、さまざまな試練の中で生きぬいてきた日本人の豊かさや生命力を確かめたいと考え、奄美大島を舞台に2人のアーティストを取材した。
奄美大島で生まれ育った歌手の元(はじめ)ちとせさん(34)は、第2子となる長男(4)の妊娠を機会に東京暮らしを切り上げ、島に戻った。
「(子供のころは)かわいがって飼っていたヤギを捌(さば)いていただくことも、しょっちゅうでした。子供ながらに、命をいただくということはとても大切なことだとわかりました」
都会に暮らす私たちが、元さんがさらりと口にした命の重みと力強さを理解するには相当な想像力が必要だ。
国際舞台で活躍する映画監督、河瀬直美さん(44)は祖母のルーツをたどって奄美大島を訪れ、その暮らしに受け継がれる日本古来の豊かさに感銘して映画制作を決めた。その物語では台風の猛威が重要な役割を担う。