「種を植えて芽が出ても、実り多き収穫の時期に全部台風に持っていかれ、壊滅的な打撃を受ける可能性もある。それでも、めげずに春には種を植えていく。簡単にはあきらめないという強い精神世界を肌で感じました」
そんな美しくも猛々(たけだけ)しい自然との対峙(たいじ)は、3回目の新年を迎えた東日本大震災の被災地にも重なる。昨年(2013年)7月、宮城県女川町では津波に襲われた中心部約38ヘクタールに最高約17メートルの高さで盛り土を行う工事にとりかかった(2013年7月13日付SANKEI EXPRESS)。岩手県宮古市田老地区のスーパー堤防が崩壊したように、「絶対安全」という神話はもはやない。それでも、逃げ出すこともなく、大規模な造成工事に再起を懸けるのは、どんなに大変なことがあってもその土地で次の世代を育て、生きぬいていくと覚悟したからに違いない。
便利で安全な都会で暮らしているとうっかり忘れてしまいそうだが、奄美大島でも三陸沿岸でも、日本人は時代の変化や自然災害に向き合いながら、ごく当たり前に古来の豊かさを受け継ぎ、力強く生命力を育んできた。この一年、生きぬいていくヒントになれば幸いだ。(SANKEI EXPRESS編集長 佐野領/SANKEI EXPRESS)