2年前のインタビューで「大のウルトラマン好き」であることを恥ずかしそうに語ったように、レフン監督は人智を超えたものへの憧れが強い。実際、「ドライヴ」では車の運転が苦手なレフン監督が孤高の天才ドライバーを描き、09年の監督作「ヴァルハラ・ライジング」では、故郷・北欧の神話をベースに超人的な戦闘能力を持つ隻眼の戦士の冒険を描いた。本作で抜群の存在感を発揮したチャンについても「僕の憧れ。いわば僕の分身みたいな人物」と明かした。
ただ、レフン監督は神のような絶対的な存在のすごみだけを、ことさらに強調したかったわけではない。むしろ、狂気をはらんだクリスタルの母性の方こそ痛烈に描き出したかったそうだ。
女性の暴力は複雑
「北欧神話で女性は『究極の悪』として描かれるケースがある。僕の視点で捉え直すと、女性が好んで振るう暴力とは、人に恐怖を植え付けたうえで、マインドコントロールを駆使して操るようなゲーム。男性にありがちな文字通り単純な暴力よりも複雑な話ですね。そこが面白く、本作の出発点となりました」。暴力的なジュリアンがクリスタルの前では従順な少年のようになり、魅力のかけらもない小さな器の男に成り下がってしまう描写は印象的だ。