1枚の写真がある。20年前に初めてアラスカで撮ったものだ。氷点下40度の森に暮らすリス。決定的瞬間にはほど遠いが、自分にとっては大切な写真のひとつだ。
カメラの知識も経験もなかった。アラスカを撮る写真家になると決めて現地に渡ったものの、どうすれば写真家になれるのか、見当もつかなかった。
誰かに習うつもりはなかった。「写真は己の感性が生む芸術。人に教わるものではない」と、頑なに決めていたのだ。とにかく練習しかない。森に入り被写体を探すと、寒気を切り裂くようにリスが走り回っていた。
降り積もった雪に掘ったいくつもの穴と穴の間を、忙しそうに行き来する小さな命。その弾ける生命力に、無意識のうちにレンズを向けていた。
だが野生動物はそれほど従順ではない。近づくととっさに穴に身を隠し、一切姿を見せてくれなくなった。思えばこの小さな試練が、この地で自然と向き合うことの難しさを暗示していたのである。
≪「撮りたい」想いは変わらない≫
ない知恵を絞って対策を練った。森といえども内部は雪の白一色だ。同色の布を被って自分をカモフラージュしよう。レンズが出せるだけの穴を開けたシーツを持って、再び森に出かけた。