桜散る=東京都奥多摩町(野村成次撮影)【拡大】
春先の東京は寒かった。2度の大雪もあり、桜の開花は遅いと予想されたが、3月下旬には暖かい日が続き、帳尻を合わせたように一気に咲き出した。あっという間に満開だ。美しい桜を妬むように花散らしの雨がやってきた。ピンクの敷物を広げたようになっている。桜の季節がまもなく終わって春がまた過ぎる。なんと無常なことだ。
枕草子に「桜など散りぬるも なお世の常なりや」と清少納言さんはクールに書き留めたが、この年になったら「あと何回花を見られるか」なんて心配もよぎってくるが、それでもしぶとく頑張ろう。
奥多摩は春が遅い。標高によって春爛漫(らんまん)だったり春浅くで、狙いに困る。ときたま出かける身としては、桜にしてもピークのときにバッチリ出合うことは至難の業なのだ。あるがままに撮るしかないとは、重々承知しているのだけれども。
奥多摩湖から北に向かう道を歩いたのは数年前のことだ。湖に流れ込む峰谷川の近くに桜が咲いていた。対岸は杉が植林されていて、暗いスクリーンになっている。桜は午後の逆光を浴びて、鮮やかに浮かび上がっていた。谷間から上昇気流が生じているのだろう。風が吹けば散った花びらは吹き上がってくる。はらはらと落ちる桜はよく見るが、上へ上へと飛び上がってくるのはおもしろい。