流血が激しかったのは、最終調整で体が温まっており、それだけ血の巡りも速くなっていたことが影響したと想像できます。あれだけの流血をしていると、驚きと不安で羽生選手が立てなくなるのも当然です。おそらく、羽生選手の中でいろいろな思いが駆け巡ったことでしょう。
この後、羽生選手が出場を強行したことについて、賛否の声が国内外で上がりました。それでも、彼は五輪王者としての責務、日本代表としての意地で、どんなに転倒しても最後まで滑り切ったことは称賛に値します。
アメリカの4大スポーツの一つである、アメリカンフットボールなどに比べ、フィギュアスケート関係者は危機感が欠如しているという指摘もありました。しかし、私が現役時代に指導を仰いだ佐藤信夫コーチは、頭を打ったらすぐに病院に行くように指示していました。状況によっては救急車を呼ぶことも想定しています。ぶつかり具合に関係なく練習をストップし、頭もすぐに冷やします。佐藤コーチはそれだけ頭部への衝撃が危険だと認識していたのでしょう。
羽生選手もすぐに米国の医師の診察を受けており、脳振盪(しんとう)の危険はないと判断された上で滑ったと報道されています。