1枚の写真では限界
一方、シュワルツ監督は警察側ばかりの話に終始せず、麻薬カルテルの武勇伝を高らかに歌い上げるメキシコの人気ジャンル「ナルコ・コリード」の若い歌手、エドガー・キンテロにも密着し、彼とファンの思考回路の解明も試みた。
「麻薬カルテルを扱った映画は多いですが、彼らの存在に触れたものはありません。僕は差別化を図ったわけです。最初、彼らの歌詞を聴いたとき、怒りがこみ上げてきました。でも、ジャーナリストに大切な心構えは、自分と異なる存在をいかに理解するかと思い直し、好奇心へと昇華させていったのです」
20年近い報道カメラマン生活を経て、シュワルツ監督が映画撮影に興味を持ったのは、ふと目の前に現われるドラマチックな現実を切り取るには、1枚の写真だけではおのずと限界があると感じたからだという。シュワルツ監督が4年をかけた命がけの“潜入取材”で描きたかった視点の一つが「麻薬取引が社会に富を生み出している」という現実だ。「麻薬戦争が約6万人ものメキシコ人の命を奪った一方で、麻薬取引がもたらす富を渇望しているメキシコ人も大勢います。他のドキュメンタリー映画がほとんど光を当てたことがない領域ですよ」。映画作家デビューした大型新人は、すでに次回作の準備に着手したそうだ。4月11日から東京・シアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開。(高橋天地(たかくに)/SANKEI EXPRESS)