俳優が天職かどうかは「分からない。でも真摯(しんし)に仕事をしていきたい」と話す東出昌大(ひがしで・まさひろ)さん=2015年4月16日、東京都世田谷区(宮川浩和撮影)【拡大】
その世界観は、ヤンをはじめ、芸術と人生との葛藤に悩む登場人物に投影される。「外の世界に出れば傷つき評価もされて怖い。今のままでいる方が楽。そんな誰もが持つ問題が、舞台とリンクすれば共感してもらえるはず」と小川。
モデルを経て映画で俳優としてデビューした東出は、今回が初舞台で初主演となる。「いつか舞台はやりたいと思っていた。でもいきなり客席700人以上の大ホールで、こんな繊細な芝居をやるなんて」と最初は戸惑った。ただ原作には強く引かれた。「『愛している』とはっきり言わなくても、その裏にある苦悩や人生の深さを感じた。舞台はそのまま戯曲になっていて、すてきです」
役作りは徹底的に
ヤンは東欧とチェロという、物語に郷愁を呼び起こす要素を持ち、登場人物の行動を受け止める中心的存在。舞台では観客に一番近い役柄でもある。とはいえ傍観者でもなく、心情を出すのはとても難しい。
故郷を離れ、チェロを弾きながら明日を模索するヤンの姿に、東出は「無情さと希望の両方を感じる」と話す。素朴で無知、旧共産圏出身であるがゆえのコンプレックスも持つ。「映像のように、瞬き一つで情感が変わる細かい芝居になる気がして心配でした。でも舞台で、その人物として生きていけば伝わるものだと今は考えています。発声はマイクなしですが、何とかなりそう」と笑う。