原発事故5年 農水産物、海外で根強い風評被害 輸入規制、近隣国ほど厳しく

 

 東京電力福島第1原発事故から5年が経過したが、日本の農水産物の輸入禁止を解除したのは、規制措置を取った54カ国・地域のうちわずか17カ国にとどまっている。日本の近隣国ほど規制は厳しく、解除の見通しは立たない。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に備え、農林水産業の競争力強化が急がれる中、被災地の生産意欲をそぎかねない状況が続いている。

 被災地を中心とした特定の都県に対し、日本の輸出額上位5カ国・地域(香港、米国、台湾、中国、韓国)は依然として措置を継続。輸入を認めても、政府が作成した放射性物質の検査証明書や産地証明書の提示が必要で、風評被害の影響は根強く残っている。

 政府は、日本産物の放射線物質は安全基準を下回っており、規制措置は科学的根拠に乏しいと各国に訴え続けているが、水産物を輸出していない内陸県の農産品まで対象になる不可解なケースもある。それどころか韓国と台湾は規制を強化しており、政府は昨年5月、世界貿易機関(WTO)に韓国を提訴する事態にまで発展している。

 農林水産省によると、現時点で安全基準を上回る放射性物質が検出されるのは、ごく一部の市町村のシイタケや野生の獣肉など数品目に限られるという。それでも各国がかたくなに規制を解除する気配はない。その理由について、農水省は「汚染水問題の報道などに日本近隣国ほど敏感に反応している」と指摘。「規制を維持した方がリスクがないと判断する傾向にある」と分析する。

 一方、欧州連合(EU)が一部規制を緩和しており、政府はこうした事例も各国への説明で利用する方針だ。

 また、規制対象となっている生鮮品や水産物は対象外の加工品に転換して輸出する方法も模索。訪日観光客が増えていることを踏まえ、観光ツアーを通して被災地の農林水産物を食べてもらう機会を増やすなどして、その安全性を認識させたい考えだ。