色あせた所得倍増論…生活防衛に走る中国人民 若い世代を中心に不安広がる
経済の減速傾向が強まる中国。国会にあたる全国人民代表大会(全人代)では、経済成長率の目標を事実上下方修正したものの、依然、経済成長路線の維持に意欲をみせた。しかし、中国の大手メディアが国内の人民を対象にした大規模なインターネット意識調査では、景気低迷を反映し、関心事には「社会保障」「収入」が上位に急浮上。専門家は「人民は不景気を見越し、早くも生活防衛を意識し始めた」と注目している。
なお経済成長に意欲
全人代は今年、3月16日まで12日間の日程で開催された。
経済成長の減速化が鮮明になる中、李克強首相は、2020年までの5年間の経済成長率の目標を前年の7%から6・5~7%に事実上引き下げ、産業構造の改革を積極的に進める姿勢を打ち出した。
中国は20年に「小康社会」(人民の生活にややゆとりのある社会)の実現を目指しており、人民1人あたりの所得を10年の2倍にすることを目標に掲げている。
政府としては、この目標を実現するためにも、構造改革を進め、なんとしても経済成長路線は維持したい考えだ。
こうした、なおも経済成長を追い続ける政府の並々ならぬ決意とは別に、中国の大手メディアが毎年、国民を対象に最も注目している話題を調べるインターネット調査の結果が注目を集めた。不景気の深刻な影響が、早くも人民の意識に影を落としていたためだ。
広がる生活不安
このインターネット調査は、大手メディアの人民ネットが02年から実施。16年は2月15日~3月1日に実施し、延べ389万人が参加した。
調査方法は、あらかじめ用意した社会問題を中心とする18項目中、関心のある内容を最多10項目まで選択し、回答する。
ちなみに18項目は、社会保障、収入、医療改革、経済の新常態、司法改革、一帯一路(習近平国家主席が提唱した経済圏構想)、公共安全、行政における政府機能のスリム化、イノベーション、金融リスク、住宅、教育の公平性、一人っ子政策の解禁、環境保護、貧困問題、新型都市化、軍事改革、汚職防止。
注目ポイントは、人民の関心事の1位が「社会保障」、2位が「収入」となったことだ。前年の1位「所得の再分配」、2位「汚職防止」から大きく様変わりした。
まだ経済成長に勢いのあった前年の調査時点では、好景気を反映し、少しでも恩恵にあずかりたい人民の関心が高まって「所得の再分配」が浮上。また、好景気の恩恵を不正に享受する官僚などへの怒りが「汚職防止」への関心を強めた。
それが今回は一転。関心事が「社会保障」「収入」へと変化した。
その背景について、シンクタンク「ニッセイ基礎研究所」の片山ゆき研究員は「昨年後半以降の急激な経済減速を背景に、人民が生活防衛の姿勢に転じた心境の変化がうかがえる」と指摘する。
今回の回答者の年齢構成などは公表されていないが、中国のネット利用者は10~30代が最も多いとされ、比較的若い世代の意見が反映されているとみられる。
片山研究員は「若い世代を中心に、生活不安が広がっている」とする。
一人っ子世代に負担
今年の全人代は、経済成長の減速化が鮮明となる中で、産業の構造改革に伴う失業問題、少子高齢化の急速な進展による高齢者の社会扶養、医療や年金といった社会保障関係費の増大などの問題が次々と顕在化。人民が改めて社会保障の重要性を再認識する事態となった。
調査の回答者の多くを占める20~30代は一人っ子世代にあたり、現在、就職や結婚、出産などの時期を迎えている。
中国社会は、いまや一人っ子世代の夫婦2人が、それぞれの両親4人の老後の生活を支え、さらには自身の子供1人を育てるという「421家庭」が主流となっている。
都市での生活コストや教育熱が高まる一方、介護保険制度は満足に整備されておらず、両親4人の老後の生活は一人っ子世代の肩に重くのしかかる。
こうした経済負担を背景に、2位の「収入」を選んだ回答者の約半数が、「物価上昇を考慮すれば、2015年の収入は前年より減っている」と感じていることも判明した。
片山研究員は「こうした結果も、社会保障への関心を高めた要因のひとつ」とみる。
人民の不満爆発の恐れ
全人代では、16年の重点取り組みとして、産業の構造改革による失業者増を意識した再雇用に向けての対策や救済措置、過去最多とされる新卒者へのベンチャー支援などが打ち出された。
医療保険についても今後5年間を見据え、都市の非就労者や農村住民の高額療養費部分の負担軽減を目的とした大病医療保険への財政拠出、処方薬や市販薬の価格などの供給体制の見直しなど、人民の不満が集まりやすい部分を中心に対策に乗り出す方針だ。
しかし、こうして政府が人民の不満解消に躍起となっても、経済成長の裏付けがなければ、いずれ行き詰まるのは必至だ。
片山研究員は「今後さらに経済減速の傾向が鮮明になれば、ますます手詰まり感が強まり、人民の不満は爆発する恐れがある」と警告する。
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