伊勢志摩サミット、金融政策の違いが波乱要因に 協調路線見いだせぬまま

 

 主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の最大のテーマとして議論された「世界経済の混乱」は、中国の成長失速だけでなく、利上げを本格化する米国と緩和を継続する日欧の正反対の金融政策も要因とみられている。サミットでは、金融政策、財政出動、構造改革の「総動員」を確認したが、金融政策をめぐる「日米欧の不協和音」(銀行系エコノミスト)が再び市場の動揺を招く恐れもある。

 昨年12月、米連邦準備制度理事会(FRB)は、9年半ぶりの利上げに踏み切り、リーマン・ショック後に導入したゼロ金利政策を解除した。

 しかし、新興国を潤してきた巨額の緩和マネーが米国などに逃避しかねないとの懸念から投資家の間でリスク回避ムードが広がり、安全資産とされる円が買われた。円相場は昨年末に1ドル=120円台をつけていたが、年明けから急ピッチで円高が進んだ。

 日銀は、円高・株安が「経営者や家計の心理を悪化させる」(幹部)として、1月下旬にマイナス金利政策の導入を決めた。しかし、「銀行の収益を圧迫し、金融仲介機能を損なう」と評判は芳しくなく、円高・株安に歯止めが掛からなくなった。5月上旬には一時1ドル=105円台まで円高ドル安が進んだ。

 欧州中央銀行(ECB)も3月にマイナス金利の幅を広げたが、ユーロ高を修正できず、投資家心理は慎重なままだ。

 27日公表のサミット首脳宣言では「財政上、金融上、構造上の政策の重要な役割を再確認する」とするが、金融政策はサミットでほとんど議論されておらず、日米欧が“協調路線”を見いだすのは至難の業だ。

 FRBが6月に追加利上げを行う可能性が高まる中、日米の金利差拡大が意識され、足元の円相場は110円台まで円安に戻している。ただ、新興国市場からの資金流出懸念が再燃すれば、投資家心理が悪化し一段の円高を招く恐れも出てくる。

 日米欧で異なる金融政策の方向感が、今後も市場の波乱要因となるのは間違いなさそうだ。(藤原章裕、飯田耕司)

 ■日米欧の金融政策

 ≪これまでの主な政策≫

 ・米国(FRB) 2014年10月に量的緩和を終了。15年12月にゼロ金利政策を解除し、0.25%利上げ

 ・欧州(ECB) 14年6月にマイナス金利を導入し、15年3月に量的緩和策を導入(月額600億ユーロの資産購入)。16年3月にマイナス金利幅を0.4%に拡大

 ・日本(日銀)  13年4月に大規模金融緩和を導入。14年10月に国債購入量を年50兆円から80兆円に増やす追加緩和。16年2月にマイナス金利(0.1%)を導入

 ≪今後の方向性≫

 ・米国(FRB) 雇用や物価の改善が続けば、「(次回)6月会合での利上げが適当」(連邦公開市場委員会参加者の大半、4月の議事録)

 ・欧州(ECB) 「インフレ押し上げに向け一段の措置を講じる」(4月のECB理事会議事要旨)

 ・日本(日銀)  「必要ならちゅうちょなく追加の緩和措置を講じる」(黒田東彦総裁)