「アホノミクス!」場違い寸劇に地元住民スルー 伊勢志摩サミットの舞台裏
三重県で5月26、27日に開催された主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)。過激組織「イスラム国(IS)」などによるテロの危険が叫ばれる中、過去最大規模の約2万3千人態勢で厳戒警備を敷いた警察当局の努力もあって目立ったトラブルはなかった。ただ、全体的に控えめだった反対集会の中には、安倍晋三政権が進める「アベノミクス」をもじって「アホノミクス」などとレベルの低いアジテーションを繰り出す過激な寸劇を行い、場違いな空気を醸し出す一幕もあった。一方、取材拠点の国際メディアセンターには国内外から計約5千人もの報道陣が集結し、大規模イベントならではの混乱も…。世界中の注目を集めたサミット。記者たちが見た「舞台裏」を紹介する。(サミット取材班)
「改憲阻止」…サミットと無関係の政治的アピール
「アベノミクスなんて、アホノミクスだー!」「アホノミクス出て行けー!」
安倍首相とオバマ米大統領のかぶり物をした演者2人が、握手をしながら「蜜月」をアピールしているとき、周囲が一斉にはやし立てた。2人がたまりかねたように一目散にその場から逃げ出すと、拍手がわき起こった。
5月27日午前。サミット会場の賢島(かしこじま)から北に約7キロの三重県志摩市内の公園で行われたサミット反対集会。そこで披露された日米両首脳を批判した寸劇の一コマだ。
集会は市民団体などが企画し、約70人が参加していた。50~60代ぐらいの年配者が多く、「安倍政権を打倒せよ」「天皇制打倒サミット粉砕」「改憲阻止」などの標語が書かれたゼッケンを身につけていた。
サミット反対集会とは無関係の政治的アピールは、その後のデモ行進でも続いた。
参加者は「教え子を戦場に送るな」「日の丸、君が代は戦争への道」などと書かれた旗を掲げて行進。伊勢神宮前で撮影されたG7首脳の記念写真を示し、「戦争国家の精神的支柱として伊勢神宮は存在している」と突飛な主張を繰り広げたが、地元住民らはほとんど注目することもなく、足早に通り過ぎるのみだった。
集会に参加していた三重県在住の女性は「三重県人は伊勢神宮を敬愛している。こうした主張には賛同しにくいのでは」とつぶやいた。実際、捜査関係者によると、反サミット活動家らが伊勢神宮近辺で集会を企画しようとしたが、地元の市民団体などから「お伊勢さんでやるのは止めてくれ」と拒否されたという。
「極左も右翼も来なかった」
こうしたエピソードが象徴するように、サミットの風物詩ともいえる反対デモは今回、予想以上に低調だった。
警察当局によると、サミットやオバマ大統領の広島訪問に絡むデモは5件あったが、それぞれ数十人から100人程度の小規模なもので、摘発者もゼロだ。
一方、平成20年の北海道洞爺湖サミットでは、国内の過激派や反グローバル化勢力がサミットを「新自由主義政策の推進会議」などとして大規模な反対行動を実施。海外からも200人以上の活動家が来日し、一部が大音響を出すデモ行進を行うなどして逮捕者も続出した。
ある警備担当者は「市民団体に紛れ込む極左勢力だけでなく、右翼団体もあまり三重にやってこなかった。都市部ではないという場所の問題もあるだろうが、テロ警戒の厳重警備で、過激なデモをやりづらい部分もあったのではないか」と分析した。
サミット警備には地震被害に見舞われた熊本県警をのぞく45都道府県の警察が応援部隊を派遣。三重県内はさながら、日本警察の「見本市」だったのだ。
応援部隊が三重県を離れる28日の離県式には、他警察の機動隊長ら約200人が参加。三重県警の森元良幸本部長は「困難な任務で、三重県警だけではなし得なかった。皆さまの努力と奮闘に感謝したい」と述べた。式典後も「日本型テロ対策の一つの在り方として実績を残せた。県民の協力にも感謝したい」と話していた。
「ゴージャス」な施設
今度はサミットの取材をめぐる内幕に話題を移したい。
サミット期間中に各国から訪れた報道陣の取材拠点となったのは、賢島から北に約20キロ離れた三重県伊勢市に設けられた国際メディアセンター(IMC)だ。
メーン施設は普段、コンサートやスポーツ大会が開かれる県営サンアリーナ。敷地内に新設された鉄筋2階建ての別館「アネックス」では、日本の技術力や三重県の産業情報も発信していた。
サミットの会合などが開かれている志摩観光ホテルのある賢島での取材には、イベントごとに専用のバスに乗り込まなければならないなど厳重な規制がかかっており、記事執筆などの作業はすべてIMCで行うことになる。
施設内には、スナック菓子やカップラーメン、清涼飲料水、コーヒーなどを提供するケータリングサービスを各所に設置。アネックス1階のラウンジはビュッフェ方式で、朝昼夜の日替わりで、和洋中100種類の料理が提供された。
8割超が地元・三重の食材で、メニューには伊勢エビの天ぷらや亀山ラーメン、伊賀牛のローストビーフ、伊勢うどんなどのご当地グルメが並んだ。松阪牛のサイコロステーキの試食会が催されるなど、海外メディアに向けて日本の「食」をアピールする場でもあった。
各国メディア関係者らにも好評だったようだ。
「ロシア連邦政府新聞」(露)のレーニン・アレクサンドル記者(30)は「地元の食材がふんだんに使われていてとてもおいしく、スタッフも礼儀正しくて気持ちがよかった」と満足げだった。
カナダのトロント大で、20年にわたり先進国の研究をしているジョン・カートン教授(68)も「美しい景色。温泉。松阪ビーフ。どれも素晴らしいね」と話していた。
ちなみにアネックスの総工費は内装を含めて約52億5千万円。サミット直前に完成したが、終了後は一般向けの見学会を6月上旬まで行った後、取り壊される予定という。
大規模ならではの混乱も
世界的な「イベント」だけに、ボランティアを含めてスタッフの数も膨大だった。世界のVIPが取材対象とあり、IMCに入るためには、事前申請で発行される記者IDカードの携帯が必須。会場の賢島内でサミット関連のイベントを取材する際には、別に「プールカード」と呼ばれる特別な取材証も必要になった。
オバマ大統領やキャメロン英首相が来日した25日、首脳が到着する中部国際空港(愛知県常滑市)での取材も、このプールカードが必要だった。
IMCから空港まではシャトルバスが出る予定となっており、記者が乗り込もうとすると、案内のボランティアスタッフから「空港に行くバスは外務省の管轄なので、プールカードが必要。なければ利用できません」と止められた。
ただ、事前に配布されていた取材要項には、「プールカードは空港で取得する」と記されていた。案内所の別のスタッフに聞いても同じく「乗車できない」の一点張り。押し問答をしているうちに、乗車予定だったシャトルバスは出発してしまった。
その後、対応に出た外務省の担当者に改めて確認したところ、やはり記者IDでバスに乗車可能だったことが判明した。ボランティアスタッフに指示が徹底されてなかったことが原因だった。
結局、運営スタッフが「こちらの手落ちだった」と急遽、別の車両を準備してくれたため、空港にたどり着くことはできたが、さすがに冷や汗をかいた。
警察だけでなく、ボランティアなどさまざまなスタッフがかかわったサミット。現場では当然ながら多少の混乱はみられたが、何よりも、世界の要人やジャーナリストらが集まる中で、大きなトラブルがなかったことは日本の力を示す場となった。
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