通訳ガイド緩和へ「質」課題 悪質案内で被害も 観光庁、訪日客対応で法改正
訪日外国人旅行客を案内する通訳案内士について、観光庁は13日、有識者会議を開き、国家資格がないと有償でのガイドが認められない現行制度の規制緩和を議論した。今年度中の改正法案提出を目指す。政府の規制改革会議は5月に「多様化する訪日客のニーズに対応できていない」として業務独占の見直しを答申したが、悪質ガイドの被害も報告される中、日本観光のイメージにも直結する「民間外交官」の質をどう担保するのかが問われる。
“狭き門”見直し
「(姉妹都市)パリにある“姉”のエッフェル塔より軽く、台風や地震にも強い。ヘルシーな日本食のおかげですね」。今月中旬のはとバス(東京都大田区)ツアーで通訳案内士の坂野美奈子さん(42)は、東京タワーを見物した30人の外国人客にタワーの豆知識を披露した。
バスの移動中も、坂野さんは皇室事情や車道が左側通行の由来などについて次々と解説、個別の観光相談にも応じた。バッグには常に最近のニュースを記したメモを忍ばせ、英字新聞も参考に「どう表現すれば外国人の方に伝わるか、いつも考えています」。
デンマークから来てツアーに参加したジョン・タイソンさん(42)は「歴史や文化にひもづけて話してくれて理解しやすい」と何度もうなずいた。60人超の通訳案内士と契約するはとバスも「質の良さと行き届いたサービスができる」とプロ意識に信頼を置く。
通訳案内士制度は1949年、外国人に外国語で観光案内をする国家資格制度として創設。法律では通訳案内士でなければ有償ガイドが禁じられている。ただ2015年の試験合格率は19.3%と狭き門。観光庁によると、現在は約1万9000人が登録するが、ガイド職に就かない場合も多く、4分の3は稼働していない。
加えて「4分の3は都市部」「使用言語は3分の2が英語」という2つの偏在があり、政府はアジアを中心とする訪日客の急増に対応できないとして制度見直しに着手。5月19日の規制改革会議の答申では「業務独占を維持したままでは、質と量の両面で対応できない」と明記された。
答申を受けて観光庁は、業務独占の代わりに国家資格者だけが資格を名乗れる「名称独占」による質の確保を図るが、ハードルは残ったままだ。
悪質案内で被害
政府は15年9月から構造改革特区として、札幌市など全国6区域で自治体の研修を条件に有償ガイドを認めるなどの対応を進めてきた。その一方で、訪日客を高値のみやげ物店に案内するといった悪質ガイドの被害も絶えない。13日の有識者会議では「資格の外国語表記は」「個人客が安全なガイドを選べるのか」などの意見が相次いだ。
1999年に業務独占を廃止した韓国では、虚偽の説明をするなどの無資格ガイドが横行し、2009年の再見直しで旅行業者に有資格者の添乗を義務付けた。
東洋大学の島川崇教授(国際観光学)は「単なる数合わせにとらわれず、訪日客の利益にかなう制度設計を考える必要がある」と指摘している。(佐久間修志)
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