経済対策・構造改革が不可欠、くすぶる世界経済の下振れリスク
中国・成都で開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は世界経済には下振れリスクがあるとの認識で一致した。英国の欧州連合(EU)離脱問題のほか、中国経済の減速など火種はくすぶっている。日本政府は来週までに大型の経済対策を決定し、景気を下支えする方針。財政出動とともに構造改革を進め、持続的な成長につなげられるかが鍵になる。
G20は24日発表した声明で「(英国のEU離脱の影響に)積極的に対処する態勢を整えている」と強調し、市場の不安を解消する姿勢を打ち出した。事実、離脱決定直後の世界的な株安や一部通貨の急落は沈静化しつつある。
ただ、離脱交渉の道筋は不透明で、長期化すれば英国や欧州のほか、貿易額が多い中国などの経済を下押ししかねない。さらに、イタリアでは銀行の不良債権問題が表面化。ドイツ銀行の経営不安説も根強く、欧州発の金融危機が起きる可能性もゼロではない。
中国も減速傾向鮮明
世界の成長を牽引(けんいん)してきた中国経済も減速傾向が鮮明だ。多額の不良債権や鉄鋼の過剰生産など構造問題の克服は国内の政治情勢も絡み、時間がかかる。人民元相場は下落が目立っており、ひとたび海外への資本流出が起きれば金融市場が混乱する恐れがある。
先行きの厳しさを象徴するように、国際通貨基金(IMF)が7月に発表した世界経済の成長率見通しは2016年が3.1%、17年が3.4%で4月時点の予想からそれぞれ0.1ポイント引き下げた。
米共和党の大統領選候補者に指名されたトランプ氏が「米国第一主義」を訴えるなど孤立主義や反グローバリズムの動きも世界経済の先行きに影を落とす。テロなどの新たな脅威も拡大している。
一方で、リーマン・ショック後のように各国が金融緩和で経済を支える余地は乏しくなっている。このため、G20は声明で「金融政策のみでは均衡ある成長につながらない。構造改革の重要な役割を強調しつつ、財政政策が同様に重要である」と強調した。
財務省幹部は「われわれのやろうとしている方向性と軌を一にしている」と説明する。
公共事業の効果限定
日本政府は経済対策の事業費を20兆円規模とする方向で調整している。リニア中央新幹線の延伸前倒しのほか、農産物輸出のための施設や訪日外国人の増加に向けた港湾の整備などを盛り込む見通しだ。もちろん当面の経済の下支えに財政出動は一定の役割を果たす。ただ、人手不足の状況では公共事業による景気押し上げ効果は限定的になりやすい。
成長の持続には、0%台にとどまる潜在成長率を高める構造改革が欠かせない。農産物を輸出するとしても企業の農地所有など規制緩和を通じ、競争力を高めることが重要になる。正社員と非正規社員の賃金差を縮小する「同一労働同一賃金」をはじめとする労働市場改革などもこれからだ。世界経済が不透明さを増す中、日本も政策を総動員して力強い成長を実現できるかが問われている。(万福博之)
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