家電メーカーは英ダイソンに学べ 「ドリームプロダクト」を製造販売するか、さもなくば…

 
2016年3月に開いた扇風機新製品の発表会

 □【新興国に翔ける】スパイダー・イニシアティブ代表 森辺一樹

 英国のダイソンは、周知の通り、「吸引力の変わらない掃除機」で、一躍、世界的に有名になった電気機器製造販売会社だ。ジェイムズ・ダイソン氏が1993年に設立した。比較的、新しい企業といえるが、近年では売り上げベースで25%以上の驚異的な成長を見せている。2015年度決算では、売り上げが3000億円超、利益は800億円以上を計上した。日本企業は、ダイソンにこそ学ぶべき点があるのではないだろうか。

 注目すべきは、ダイソンが作っている製品はすべてコモディティー(画一的)であるということだ。ダイソンが手がける掃除機、扇風機、空気清浄機といった電化製品は、すべて日本のメーカーが過去に一時代を築き、とっくの昔にコモディティー化している。

 にもかかわらず、その分野にあってダイソンは、「吸引力の変わらない掃除機」をはじめとする唯一無二のドリームプロダクトを次々に生み出しているのだ。

 1980~90年代、日本のメーカーは電化製品の製造で世界一だった。当時は、日本のメーカー5社にしか作ることができない製品がたくさんあったといえよう。とにかくいいものを安く作れば世界が買い求めたという時代だ。

 その後、中国、台湾、韓国の企業が台頭してきたが、当初は「安かろう、悪かろう」で品質的にも技術的にも日本製品には到底及ばなかった。しかしそのうち、中国などの製品も品質的に日本製と大差がなくなるほどに成長していき、それに連れてコモディティー化が加速していったのだ。

 日本のメーカーは「中国製品が安いのはしようがない。でも、われわれの製品は品質がいい」と言い続けてきたが、結局は世界シェアで負け、今では世界最大の家電メーカーの地位は中国のハイアールに取って代わられるまでになった。だからといって、日本のメーカーはコモディティー化した製品を作ることをやめたかというとそうではなく、ただ中国に苦しめられ、一方ではダイソンのようなドリームプロダクトを生むこともできず、非常に中途半端な事業展開を続けている。

 品質や機能が高ければ売れるという時代はとうの昔に終わり、今はもう、多くの製品がどの会社でも作れる。日本の家電メーカーがやるべきことは、コモディティー化した電化製品の分野から撤退するか、もしくはダイソンのようなドリームプロダクトを生む会社になるのか、どちらかだ。

 ダイソンは今年、4万円もするヘアドライヤーを発売した。中国製品なら1980円で買えるだろう。日本製品なら9800円、日本メーカーが中国で作ったものなら3980円といったところか。そこへダイソンは数倍もの価格のヘアドライヤーを投入して売れている。これこそ、まさにドリームプロダクトだ。

 日本のメーカーは高品質ヘアドライヤーを1980円で作るか、それとも4万円の価値がある唯一無二のヘアドライヤーを開発するか、その岐路に立たされている。そのどちらもできないのであれば、撤退するという勇気ある選択も必要だ。どっちつかずの状態のままではいずれ淘汰(とうた)される。

 このままではますます、世界の富裕層はダイソンに獲られ、中間層以下は中国、台湾、韓国に獲られる、ということになってしまう。

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【プロフィル】森辺一樹

 もりべ・かずき 海外販路構築のスペシャリスト。10年以上にわたり1000社以上の海外展開の支援実績を持つ。アジア新興国市場の販路構築が専門。海外市場開拓コンサルタントの第一人者として活躍中。“アジアで売る”ためのノウハウをネットラジオで無料配信中! www.spyderagent.com/podcast

 >>森辺氏のツイッターは @kazukimoribe