「通貨協定」再開が教える韓国の国柄 日韓メディアで異なる認識
社説で経済を読む■産経新聞客員論説委員・五十嵐徹
日本と韓国の「通貨スワップ協定」が1年半ぶりに再締結される見通しになった。金融危機の際に互いに通貨を融通(交換)し合う仕組みだが、日韓関係の急速な冷え込みを背景に、昨年2月に打ち切られていた。
このところ両国間では、関係改善に向けた動きが活発で、その意味からは歓迎すべきだが、経緯を振り返れば、単純に喜んでばかりもいられない。入り組んだ両国関係の複雑さ、いびつさも浮かび上がってくる。
協定再開は、8月27日にソウルで行われた麻生太郎副総理兼財務相と柳一鎬・副首相兼企画財政相による「日韓財務対話」の席上、韓国側から提案されたという。
麻生財務相は、訪韓直前の24日の閣議後会見で、「向こう(韓国側)から話が出れば検討する」との見方を示していた(東京発ロイター電)。
朝日新聞によれば、通貨協定は「国際的に流通が少ない通貨が暴落した場合などに、ドルなどを融通して支援する仕組み」で、日本より韓国側のメリットがはるかに大きい。日韓間では、1997年のアジア通貨危機をきっかけに、2001年に協定がスタート。最大時は、日本が700億ドルを韓国に融通することになっていた。
日韓で異なる認識
8月28日付の読売社説も、「主に韓国の通貨不安を抑える役割を担ってきた」と、暗に日本の“片務性”に触れつつ、「再締結は、両国だけでなく、アジア地域全体の金融市場の安定にも役立つと評価できよう」と意義を強調している。
ところが、韓国側報道からは別の景色が見えてくる。
韓国の有力紙「朝鮮日報」は社説(8月29日掲載の日本語電子版)で「通貨スワップは韓日両国にとって必要で再開された」ものとし、日本も「急激な円高を抑えるために」必要だったと強調している。また、「日本国内で『韓国がプライドを捨て、実利を得た』という声」が出ていると指摘したうえで、「望ましくない」と非難している。「中央日報」も日本語電子版で「話を切り出してすぐ受け入れた日本」とのタイトルで、対話の模様を次のように伝えている。
「合意するのに長い対話はいらなかった。柳副首相が切り出すと麻生財務相はすぐ待っていたかのようにこれを受け入れた」
いずれの記事も、情報元が明らかにされていないため、検証は不能だが、韓国紙の読者は、日本側がより協定に積極的だったとの印象を強く受けるに違いない。
協定が日本の円高阻止にどの程度役立つかはさておき、少なくとも韓国側には、2つの点で協定の再開は重要で大きな意味を持つ。
1つは、英国の欧州連合(EU)離脱決定や米国の利上げなど、世界経済の先行き不安が増す中で、為替相場が今後とも急激に変動する可能性があることだ。外需依存度が極めて高い韓国経済にとって、通貨スワップ協定の存在は、いざというときの心強い安全装置といえる。
ちらつく中国の影
2つ目は、中韓関係の冷却化だ。北朝鮮の相次ぐミサイル発射を契機に、韓国は最終的に米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備受け入れを決定した。これに中国が強く反発している。
韓国メディアは、現在の外貨準備について、歴史的にも最高レベルまで積み上がっていると指摘。「日本との通貨スワップは備えあれば憂いなしとみるべきだ」(韓国経済新聞)と強気の姿勢が目につく。だが、その背後にちらつくのは、やはり中国の影だ。
現在、韓国が通貨スワップ協定を締結しているのは、中国、インドネシア、アラブ首長国連邦(UAE)、マレーシア、豪州などで、計1190億ドル規模になっている。ところが、その半分近い560億ドルは中国が占める。
今回の対日協定の再開には、過剰な中国依存を一刻も早く脱却したいという韓国側の焦りもにじむ。
産経は8月30日付社説で、「重要なのは『反日』や中国傾斜を強めたことが、経済や安全保障などあらゆる面で悪影響を及ぼしたという点を、韓国側がきちんと認識することである」と述べている。
読売も同28日付社説で「慰安婦問題の解決に合意したことで、両国関係は着実に改善している。今回の協定再締結も一助となろう」と期待を寄せるが、果たして韓国側にその思いが届くかどうか。
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