日韓経済連携の可能性 漂流するTPP アジアで自由貿易拡大を
高論卓説9月7日にラオスのビエンチャンで開かれたASEAN(東南アジア諸国連合)ビジネス投資サミットで安倍晋三首相は「ASEAN諸国のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加を後押しする」と表明した。同時に、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)についても「質の高いものとなるよう、しっかり進める」とコメントした。
RCEP(アールセップと発音する)は、日中韓の3カ国にASEAN10カ国、さらに豪州、ニュージーランド、インドを加えた計16カ国によるメガFTA(自由貿易協定)だ。もともとは2015年中の合意を目指していたが、8日に今年中の合意も断念することになった。
その出発点は、東アジアで米国抜きの自由貿易圏をつくりたい中国が05年に日中韓とASEANによる枠組みを提唱したことだ。これに対抗して日本が、さらに豪州、ニュージーランド、インドを加えた枠組みを主張。最終的にASEANが日中の提案を踏まえてまとめた構想が現在のRCEPである。交渉参加国が多く、かつ経済水準のばらつきが大きいのがRCEPの特徴だ。それだけに農業分野などで関税率の引き下げ幅をめぐる隔たりが大きい。
その中で日本は、RCEPを質の高い、つまり関税撤廃の度合いが高い自由貿易協定にするよう旗を振ってきた。一方で貿易自由化よりもアジアでの影響力拡大に重きを置く中国は慎重で、両者の綱引きが続いてきた。そのバランスを日本優位に傾けたのが、15年10月のTPP大筋合意だ。
ところが、ここにきてTPPの先行きが怪しくなってきた。米国大統領選で民主、共和両陣営ともTPP批准に反対の姿勢を鮮明にしているためだ。オバマ大統領は政権のレガシー(遺産)とするため任期中に何とか批准しようとしているが、そのハードルは高い。TPPの発効を前提に動いてきたアジア諸国は、一斉に様子見に転じている。こうなると、日本はやや孤立気味となる。
そこで有力な選択肢になってくるのは、韓国を巻き込むことだろう。朴槿恵政権の下で中国に大きく傾斜してきた韓国は現在、米国や日本との結びつきを再度強める方向に軌道修正中。TPPには政府、財界とも参加に前向きだ。
これまでは日中韓FTA交渉やRCEP交渉などにも韓国は消極的だった。日本にとってこれらの交渉は、中国市場へのアクセス拡大のために意味がある。だが、韓国は既に中国とFTAを結んでいるからだ。むしろ産業構造が似ており、技術力が高い日本と同じ自由貿易圏に入ることに韓国は脅威を感じてきた。
だが、中韓FTAの効果は韓国側の期待を大きく下回っている。日本と足並みをそろえて、RCEPの自由化度を上げ、中国に一段の市場開放を迫るメリットは大きい。TPPが漂流寸前の今日、中国とのルール形成競争の局面は再び変わりつつある。韓国をどう巻き込むかは日本にとって重要な課題になりそうだ。
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【プロフィル】西村豪太
にしむら・ごうた 「週刊東洋経済」編集長代理。1992年に東洋経済新報社入社。2004年から05年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。昨年12月に『米中経済戦争 AIIB対TPP』(東洋経済新報社)を上梓。46歳。
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