市場を振り回してきた日銀サプライズ戦略 黒田総裁の武器「分かりやすさ」に陰り

検証 異次元緩和(下)
金融政策決定会合後に記者会見する日銀の黒田東彦総裁。市場との対話を促進しようと努めている

 「今回の新しい枠組みの内容については、その趣旨や効果をよく理解してもらうよう努めていきたい」

 21日、金融政策決定会合後の記者会見に臨んだ日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁はこう語り、「市場との対話」を強化する考えを強調した。

 市場はこれまで、黒田日銀の「サプライズ(驚き)戦略」に翻弄されてきた。最たるものが1月のマイナス金利政策の導入決定だ。黒田総裁は直前まで否定的だったにもかかわらず、前触れもなく導入を決定。市場や収益が圧迫される金融機関からは不満が噴出した。せっかく切った強力な緩和カードだったが、世界的なリスク回避の荒波もあり、急激な円高を阻止できなかった。

 それを踏まえて日銀は、今回、市場との対話を重視する姿勢に転じた。8月から9月にかけて黒田総裁や中曽宏副総裁ら決定会合メンバーが次々と講演などを行い、市場に総括的な検証や金融政策の枠組み修正の方向性が織り込まれていったのは間違いない。

 日本証券業協会の稲野和利会長は「市場との対話を促進していこうという姿勢がみえる」と日銀を評価する。

 ◆薄れた明快さ

 一方、市場との対話を促す上で重要な「分かりやすさ」が薄れてきていると感じる市場関係者は多い。

 日銀は今回、市場に供給するお金の「量」から、長期と短期の「金利」に政策の軸足を移した。当初からの大量の国債買い入れにマイナス金利政策が加わり、さらに新たに長期金利を政策目標に据えたことで、政策の枠組みがどんどん複雑化しているのは否めない。

 決定内容が伝わった21日の外国為替市場では当初、一時1ドル=102円台まで円安ドル高が進んだが、時間の経過とともに「緩和拡大ではない」との見方が広がって反転。その日の夜には1ドル=100円台まで円高ドル安が急加速した。

 約3年半前。日銀は異次元の緩和策を決めたが、就任したばかりの黒田総裁は「2年で2%の物価上昇」などと明快な目標を打ち出した。2014年10月の追加緩和でも市場に流すお金の量を大幅に増やすことで、株高・円安を演出した。

 だが、今年に入ってからは発表後に市場の解釈が分かれる決定が散見される。

 「黒田総裁が登場したときは『分かりやすさ』がキーワードの一つだった。そうした長所が見えなくなってきているのではないか」

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の稲留克俊シニア債券ストラテジストはこう心配する。

 ◆思惑交錯で不安定化

 日銀はマイナス金利政策を維持した上で、長期金利が0%程度で推移するよう誘導する。ただ、中央銀行が長期金利を制御するのは難しいとされ、実現できるかは識者の間でも意見が分かれる。海外の中銀で長期金利を政策目標として導入した例はほとんどない。

 ニッセイ基礎研究所の上野剛志シニアエコノミストは「日銀が目指す金利水準を実現するには、日銀の考えを市場に浸透させる必要がある。金利に関する情報発信を積極的に行わないと、思惑が交錯して市場の不安定化を招きかねない」と指摘。今後の政策を市場にある程度予見させるためにも、「緩和手法の効果と副作用の両面について、今後も本音ベースの対話を深めてほしい」と注文する。

 サプライズ戦略を封じ、市場との対話重視に転じた黒田日銀。双方の関係修復は緒に就いたばかりだ。(この企画は飯田耕司、森田晶宏、米沢文が担当しました)