「厳冬」のシリコンバレー トランプ政権で寒風吹きつけ ブレーンから排除
トランプ米次期大統領の就任を控え、IT業界の総本山のシリコンバレーが「厳冬」を迎えている。トランプ氏を支える経済ブレーンから、IT企業はほぼシャットアウト。ネットの誤情報が大統領選に影響したとしてフェイスブックが批判を浴びるなど、踏んだり蹴ったりだ。
「ある程度予想はしていたが、ここまで露骨にやってくるとは…。大統領に当選したら、『われわれ』にも握手を求めてくると思っていたんだが」
あるグーグル関係者が苦笑まじりにため息をついたのは、トランプ氏が2日に発表した「戦略政策フォーラム」の創設だ。
経済政策や雇用創出策について協議し、トランプ次期大統領に助言するのが仕事で、いわば財界ブレーンのような組織といえるが、注目を集めたのがその名簿リスト。ゼネラル・モーターズ(GM)のメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)、ボーイングのジム・マクナーニ元CEOなど名だたる大企業の経営者に加え、米金融大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOなど金融トップがずらりと名を連ねた。トランプ氏の大企業や金融界を重視する姿勢がにじみ出た顔ぶれといえよう。
その一方で、西海岸のIT企業のトップは皆無。IT系ではIBMのバージニア・ロメッティCEOが目につくくらいだ。
女性や移民、イスラム教徒などへの差別的な発言で物議を醸してきたトランプ氏は、新政権の国連大使に女性のインド系移民、ヘイリー・サウスカロライナ州知事を起用すると発表した。22日にはメディアでの同氏批判の急先鋒だった米紙ニューヨーク・タイムズの本社を訪問。トランプ氏に批判的な勢力と融和姿勢に転じるのではないかともみられていた。
しかし、不動産王、トランプ氏のベースであるビジネス界にかぎっていえば、自己流を貫くつもりのようにもみえる。
新興企業の多いシリコンバレーは、伝統的にリベラルな政策や民主党を支持する空気が強い業界だ。実際、オバマ大統領もフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOらITトップと親交が深い。筆者は2014年まで産経新聞特派員として米国に駐在していたが、オバマ政権下でシリコンバレーはまさに我が世の春を謳歌していた印象が強い。
もちろん、やり手経営者が多いシリコンバレーには冷徹な「計算」も働いている。インド系など移民技術者が多い業界としては、オバマ政権とクリントン氏が不法移民の救済・受け入れ拡大を目指していたことは追い風となるからだ。
しかし、トランプ氏の方向はその真逆。不法移民の送還や入国管理の強化を掲げているだけに、業界には不安が渦巻いている。
さらに、「偽ニュース」問題という逆風がシリコンバレーに吹き付けている。
「ローマ法王がトランプ氏の支持を表明した」
選挙戦を通じ、こうしたデマがSNS(交流サイト)やニュースサイトで拡散した。大統領選に少なからぬ影響を与え、皮肉にもIT業界の多くが望まなかったトランプ氏当選(クリントン氏落選)につながったのではと、フェイスブックやグーグルなどネット関連企業が猛烈な批判を浴びている。
当初は、「クレージーだ」と反発していたザッカーバーグ氏も、「問題を真剣に受け止める」として、偽ニュースの検知強化など対策に乗り出すことを余儀なくされた。
今やシリコンバレーは戦々恐々だ。トランプ氏の当選直後、カナダ政府の移住情報サイトがシステムダウンしたことが話題になった。移民法を改正し、技能系の労働者などが移住しやすくなったことが背景ともささやかれた。
緊張が深まるばかりだったトランプ氏とシリコンバレーの関係だが、大注目の情報が最近報じられた。
米政治サイト「ポリティコ」が伝えたもので、トランプ氏が14日に、IT業界のトップと会合を持つという。大統領首席補佐官に決まったラインス・ブリーバス氏らがIT企業のトップをラウンドテーブル形式の会合に招待したという。ただ、場所はニューヨークのトランプタワーということ以外、参加者や議題など詳細は不明のままである。米ニュースサイトのテッククランチは「サイバーセキュリティー、ネットの中立性はもちろん、職をいかに増やすかも議題になると考えていいだろう」とした上で、「招待された人物と同時に、招待されなかった人物、企業の名前も同様に重要だ」と意味深げな指摘をしている。
IT業界側にもトランプ氏との“和解”を呼びかける動きがある。アップルのティム・クックCEOもそのひとりだ。
この会合が、トランプ氏とシリコンバレーの雪解けのきっかけとして潮目が変わるのか、それともけんか別れで亀裂は修復不可能に陥ってしまうのか。関心を集めそうだ。(柿内公輔)
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