対ロシア、「民間」は優先事業に絞り込み 15日から日露首脳会談 政府も覚書調印

 

 安倍晋三首相は15日、地元・山口県長門市でロシアのプーチン大統領と会談する。北方領土問題を含む平和条約締結交渉をめぐり協議。16日には東京に移動し、官邸で経済問題を主要議題に会談する。経済分野では安倍首相が5月に提案した8項目の経済協力プランの具体的な内容で合意する。日本企業が参画する約30事業を優先的に検討していたが、今すぐ実施できる事業に絞り込む方針だ。民間事業とは別に、主に政府が実施する経済協力では十数本の覚書に調印する。

 ガス生産企業に融資

 首脳会談が近づくにつれ、北方領土問題の解決は「簡単な問題ではない」(首相)とのムードが高まっており、経済協力だけが先行する事態を懸念する意見が増えてきたことが影響した可能性がある。

 合意する民間事業には、北極海ガス田開発を手掛けるガス生産企業「ノバテク」に対する国際協力銀行(JBIC)の2億ユーロ(約240億円)の融資が含まれる。ただ、三井物産と三菱商事が出資する「サハリン2」での3基目の液化天然ガス(LNG)生産設備建設は、「具体性がない」(交渉筋)として見送られる見通しが強まった。

 政府の覚書には両国の税関当局による貿易円滑化の取り組みや、厚生労働省とロシア保健省による保健・医療分野での協力などを準備している。

 経済協力をめぐっては、「各国首脳と2人だけで協議し、譲歩を引き出すのはプーチン氏の得意技」(ロシア専門家)、「ボール球は見逃す勇気が必要」(与党議員)などと、ロシア側の要求に対し冷静に対処する必要があるとの声も広がっている。両氏による会談は、第1次政権から通算で16回目となる。

 首脳会談を前に世耕弘成経済産業相(ロシア経済分野協力担当相)は12日、東京・内幸町の日本記者クラブで会見。日露で合意する経済協力について「必ず融資・投資して返ってくるプロジェクトを選んだ。いわゆる『食い逃げ論』は当てはまらない」と強調した。

 政治決断の呼び水

 また、ロシア側の交渉窓口だったウリュカエフ前経済発展相が巨額収賄容疑で訴追され、失脚したことについては、シュワロフ第1副首相が代役を務めることになり、経済協力の作成作業では「問題がなかった」との認識を示した。

 経済協力は北方領土交渉でプーチン大統領の政治決断を引き出すための呼び水だ。ロシア国内で返還に反対する意見が強いなか、北方領土を置き去りにして経済分野だけ進めれば国民の理解は得られない。

 これに対し、世耕氏は「これまでにない規模とスピードで経済協力が進むことで、政治にいい影響を与える。好循環になってほしい」と述べ、経済協力が領土交渉の進展に結びつくことに期待感を示した。