中国「一帯一路」投資、東南アジアでは明暗 インドネシアで高速鉄道めど立たず フィリピンは追加支援狙う
中国が現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を掲げ、積極的にインフラ投資を進めている地域が東南アジアだ。確かにフィリピン、カンボジア、ラオスなどで民生向上につながっている投資は多い。ただ、実際に足を運んでみると、順調に投資が進んでいないケースも目につく。インドネシアの高速鉄道計画は、着工から1年以上たっても建設のめどが立たない状況が続いていた。(ジャカルタ 吉村英輝)
インドネシアの首都ジャカルタから約60キロ離れた、西ジャワ州カラワン県ワナカルタ村の水田地帯。
地主のイダムさん(46)は高速道路に面した場所を指さし、「あの辺りに高速鉄道駅ができる。乗客目当ての店も増え、地価は上がる」と目を輝かせた。
すでに土地買収の打診が数回あり、1平方メートルあたり150万ルピア(約1万3000円)を提示されたが、「相場の半分以下だ。500万ルピアはほしい」という。
しかし、高速鉄道の建設予定地では土地収用計画が白紙の状態で、本格的な工事は全く進んでいない。
建設を手がける合弁のインドネシア中国高速鉄道社(KCIC)は、社員を1年前の30人から140人に増やし、土地収用を一気に進展させる意向だ。
地元メディアによると、リニ国営企業相は先月末、当初の中国案になかったトンネル建設や土地収用費により、総事業費が51億9000万ドル(約5900億円)から59億ドルに増加したと説明。中国側の投資拡大に期待を示した。中国の国家開発銀行から今月、第一弾となる10億ドルの融資が行われる見通しという。
ただ、中国側は受注決定後、もともと不要としていた「政府保証」「土地収用完了」を資金提供の条件として提示。融資実行も延期が繰り返されており、ある外交筋は「建設の遅れや条件変更で、インドネシア政権内に中国への警戒感が広がっている」と指摘する。
高速鉄道はインドネシアで初めてで、ジャカルタ・バンドン間の約140キロを約40分で結ぶ計画だ。
ジョコ大統領は2015年9月、事業化調査などで先行していた日本案を蹴って、リニ氏の推薦する中国案を採用した。中国案の開業時期が日本案より早い2019年前半で、次期大統領選の「実績」になると踏んだことも理由とされる。
だが、昨年1月にジョコ氏が出席して着工式典が行われた後、同7月にやっと建設許可が出るなど、ずさんな「見切り発車」の弊害が露呈し続けている。
こうした中、ジョコ氏はジャカルタとスラバヤを結ぶ既存鉄道(約750キロ)の高速化については、日本への発注に前向きという。「質の高いインフラ整備」を掲げる日本に、関心がシフトしているもようだ。
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一方、中国からのさらなるインフラ支援獲得に前向きなのがフィリピンだ。ドゥテルテ大統領は4月29日、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議後の記者会見で、一帯一路に関し「ASEANにもたいへん重要だ」と強調した。
北京で14日に開幕する一帯一路・国際協力サミットフォーラムには、ジョコ氏、ドゥテルテ氏ともに出席し、習近平国家主席とそれぞれ会談する予定だ。
ドゥテルテ氏は昨年10月の訪中で、南シナ海問題の「棚上げ」の見返りに、中国から巨額の経済支援を取り付けたとされる。4月29日の会見では、同フォーラムに出席することで、中国から新たな支援を引き出したいとの希望を表明した。
ドゥテルテ政権は先月、経済政策「ドゥテルテノミクス」を公表。マニラ首都圏の地下鉄建設などインフラ整備を柱に、今後3年間で3兆6000億ペソ(約8兆2千億円)を投じるとしており、中国の資金援助に対する依存を深める方向だ。
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