ミャンマー北部で、中国が主導した巨大ダム建設が中断されてから5年余り。軍政時代に進められたダム計画に地元では完全破棄を求める声が広がるが、中国は駐ミャンマー大使を建設予定地に派遣するなど再開に向け働き掛けを強めている。中止か再開か。現政権を率いるアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相は国内世論と中国の圧力との間で板挟みになり、沈黙したままだ。
北部カチン州で2本の川が合流し、国土を南へと貫くイラワジ川が始まるミッソン。ダムができれば水没する河原には、観光客を目当てにした茶屋が並んでいた。ツアーで友人と訪れたイ・イ・モンさんは「ミャンマー人にとって特別な場所。感激」と話す。
イラワジ川は流行歌にも登場するなど、ミャンマーの人々に愛されてきた。ミッソンは風光明媚(めいび)な名所として知られるが、茶店の対岸の山肌は削られ、工事が進んだ様子が分かる。工事用の橋脚は建設途中のまま、さび付いていた。
ダムは水力発電用で、中国国有企業が36億ドル(約4020億円)を投資、ミャンマー企業と合同で2009年に建設を始めた。中国の全面支援を受けてきた軍政が建設を後押ししたが、発電量の9割が中国向けとされ、環境破壊への懸念もあり、地元で反対運動が巻き起こった。民政移管から約半年後の11年9月、テイン・セイン前大統領が中断を決定した。