人気沸騰のビットコイン、犯罪に浸透 消失事件で「法の穴」露呈 業界ルール道半ば

仮想通貨の危うさ(上)

 「サイバー戦は万能の宝剣だ」。北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は指導者就任以来、こう強調し、サイバー部隊の育成に力を入れてきた。

 韓国の警察当局は、その中核を担う工作機関「偵察総局」が世界規模でサイバー攻撃を繰り返し、昨年以降、企業から不正入手した情報を公開しない見返りなどとして仮想通貨「ビットコイン(BTC)」の要求に乗り出したとみている。

 さらに今年5月ごろからは、北朝鮮系ユーザーがBTCの「採掘」(取引に伴う膨大な計算に協力して報酬を得ること)を急増させているとの見方も浮上。対北消息筋も「ネット空間での大掛かりな外貨稼ぎに打って出るだろう」と予測しており、制裁強化で現実世界の金融口座が国際社会の監視にさらされる中、北朝鮮がBTCに目を付けたことは容易に想像できる。

 BTCに絡む事件や不穏な動きがここ数年、国内外を問わず顕在化している。

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 「マウントゴックスを世界最大のマーケットにしたい気持ちがありました」

 7月11日、東京地裁。法廷の証言台に立ったマルク・カルプレス被告(32)はこの日の初公判で、最高経営責任者(CEO)を務めていたBTC取引所「マウントゴックス」(東京)への思いを語り、「私は神に誓って無実です」と潔白を主張した。

 シェア7割の取引所が破綻し、CEOが業務上横領罪などに問われたBTC消失事件。流通して間もない仮想通貨の将来を占う出来事として、海外の投資家らも行方を注視してきた。世界で初めて、取引所に捜査のメスが入った事件でもある。未聞の捜査に加え、国内外の関係者への聴取などに時間を要し、逮捕から2年近くが経過していた。

 コインは本当に消えたのか-。被告が主張するように「確かに外部からのハッキングで消失したBTCもある」と捜査関係者は指摘する。しかし、検察側は、ハッキング被害はごく一部にすぎず、被告が内部システムを不正に操作したことや顧客の資金を流用したことなどが破綻の背景にあるとみる。弁護側は内部操作などを認めつつ、「不正に当たらない」との立場だ。

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 内部操作の違法性をめぐっては、法の“抜け穴”も浮かび上がった。

 当時は国内でBTCの法的位置付けが明確でなく、「金融の世界では基本」(業界関係者)とされる顧客資産の分別管理義務が明示されていなかった。

 「赤字を顧客の金で補填(ほてん)していないか」。検察側は、被告に対するマウント社従業員らの懸念の声を紹介。対する弁護側は「顧客が入金した資金はマウント社に帰属する」とし、主張は真っ向から対立する。

 一方、事件で明るみに出た仮想通貨の課題は整理されつつある。4月施行の改正資金決済法では、取引所に資産の分別管理や定期的な外部監査が義務づけられた。仮想通貨を扱う業界団体「日本ブロックチェーン協会」(東京)などは業界ルール策定を検討中だ。

 BTCに詳しい斎藤創弁護士は「現在のユーザーは投資目的などが主だが、利用可能な場が広がればまだ需要は増える」とみる。匿名性の高さから「犯罪に悪用される」との懸念はいまだ根強いが、BTC自体の信頼性は揺らいでいない。

 需要を裏付けるように、マウント社の資産である約20万BTCの価格は初公判時点で既に、破綻当時の約120億円相当から5倍に当たる約600億円相当まで跳ね上がっていた。「BTC消失の原因究明を行う」と、法廷で語ったカルプレス被告の審理は10月に再開される。

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 「登録完了」「身に覚えのない方はこちらへ」。4月、無料の漫画サイトを閲覧していた東京都の30代女性のスマートフォン画面に突然、そんな文言と問い合わせ先の電話番号が表示された。

 サイトは著作権を侵害しており、やましさがあった女性は慌てて電話。相手は「9万円を支払わないと退会できない」と告げ、コンビニエンスストアでの支払いを要求した。

 ここまでは架空請求詐欺の常套(じょうとう)手段だが、このケースが特異だったのは、女性が支払先として指示されたのが、「仮想通貨購入用口座」へ入金するための番号だったことだ。

 仕組みは銀行振り込みに近い。コンビニで各種代金支払いやチケット購入などの手続きができるマルチメディア端末を操作した後、端末から出る用紙を持ってレジで代金を支払うと、詐欺業者が利用する仮想通貨購入用の口座に日本円が入金される。国民生活センターによると、消費者が架空請求に気付いたときには、日本円を仮想通貨に交換し、別口座に送金していることがほとんどだという。

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 ビットコイン(BTC)などの仮想通貨が犯罪に悪用される事例が目立ち始めている。5月に世界で最大規模となる数十万件の被害を出した身代金要求型ウイルス(ランサムウエア)「WannaCry」によるサイバー攻撃では、感染したパソコンの使用者は、数万円相当のBTCで解除ソフトの購入を要求された。

 国内でも、不正取得したBTCをマネーロンダリング(資金洗浄)目的で換金し他人の口座に送金したとして、男2人が組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)容疑で追送検された事例や、女児のわいせつ画像販売の支払いにBTCが利用されていたケースなどがある。

 国民生活センターや各地の消費生活センターなどに寄せられる相談は急増しており、捜査関係者も「今後、一般市民・犯罪者双方にBTCなどがより浸透していけば、被害は拡大する可能性がある」と危惧する。

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 なぜ犯罪集団はBTCなどの仮想通貨に目をつけ始めたのか-。

 ネットセキュリティー会社「トレンドマイクロ」(東京)広報担当者、鰆(さわら)目(め)順介氏は「仮想通貨の持つ利点と匿名性が、残念ながらサイバー犯罪者が理想とする性質とも一致していることだ」と指摘する。

 仮想通貨とは、突き詰めれば暗号化されたデータにすぎない。政府や金融機関のような中央管理システムは存在しないため、国境を越えて、誰もが、いつでも、どこでも、仲介手数料や遅延なしに送金を行うことができる。また偽造が極めて困難で、個人情報が暗号化されて守られているため、詐欺や個人情報窃取に強いとされる。

 しかし、こうした仮想通貨のメリットは、非合法に取得したアカウント情報などを売買する「アンダーグラウンドサイト」などで悪用されてきたこともまた、事実だ。

 鰆目氏は「BTCが普及しつつあるとはいえ、仕組みなどが分からないまま犯罪に巻き込まれたり、現金の支払いを行ったりする人もいる」と指摘。「コンピューターの脆弱(ぜいじゃく)性を修正する更新プログラムの適切なインストールや、どういった手口の犯罪が行われているかを確認することで防ぐことができる被害もある」と警鐘を鳴らす。

 仮想通貨の人気が沸騰している。投機対象となる一方、記録方式の「規格」をめぐる分裂騒動などもあって価格は乱高下。匿名性を悪用した犯罪も増加するなど危うさもはらみ、未成熟な市場の先行きを追った。

 【用語解説】仮想通貨

 インターネット上で商品購入や送金に利用できる通貨で、ビットコインやイーサリアムが代表格。中央銀行などが発行、管理する円やドルといった法定通貨と異なり管理者がいない。複数のコンピューターで取引を監視する「ブロックチェーン」という仕組みで管理し、民間事業者が取引記録を更新している。海外送金の手数料が安いなどの利点がある一方、投機マネーの流入で値動きが激しい。

 【まめちしき】管理主体なし、複数コンピューターで管理

 仮想通貨は円やドルなどの法定通貨と同じく商品を買うのに使える。ただ、法定通貨が特定の国で発行され、中央銀行などが一元管理するのに対し、仮想通貨に管理主体はいない。複数のコンピューターで取引を管理する「ブロックチェーン」という仕組みで成り立っている。

 法定通貨で使われる中央集権型システムでは、親サーバーのような巨大なコンピューターがすべての取引データを記録・管理。だがサイバー攻撃でサーバーがダウンすると全体に被害が出るといった課題がある。

 ブロックチェーンは同じデータを複数のコンピューターで分散して管理。一部が攻撃されても正常なコンピューターを通じ容易に復旧できる。多くのコンピューターで監視しており、一部のコンピューターによる不正行為も起きにくい。

 不正などのリスクがないことが信用を生み、仮想通貨の価値の源泉の一つとなっている。景気動向に合わせて中銀などの発行主体が流通量を調節することがない「安定性」も、信頼性の向上につながっている。

 とはいえ、匿名性が高いことから、マネーロンダリングなどへの悪用が懸念されている。

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