【キャッシュレス革命(1)】顔パスやQRコード決済 レジ待ちなし、働き方一変

 
スマートフォンをゲートにかざして入店し、商品を持って店外に出れば自動精算される「アマゾン・ゴー」=米シアトル(AP)

 巨大なコンテナターミナルや高層マンションの建設ラッシュにわく博多湾の人工島「アイランドシティ」(福岡市東区)。地場ディスカウント店大手のトライアルカンパニーが2月に開店した「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」では、見慣れない光景が広がっていた。

 来店客は、バーコードリーダーとタブレット型端末が付いたカートで店内を回る。手にした商品のバーコードをリーダーにかざすと端末に購入商品の名前や金額が逐一表示され、合計金額を確かめながらボタンを押していた。専用プリペイドカードを事前購入してお金をチャージ(入金)していれば、自動決済される仕組みだ。レジに並ぶ必要はなく、最後に店を出る手前でスタッフが正しく決済されたかを確認するくらい。

 「何回かは戸惑ったよ。でもレジに並ばないからスピーディーだし、これからもレジカートしか使わないね」。近くのマンションに住む元会社員の男性(61)はそう言い切った。

 親会社であるトライアルホールディングス(HD)副会長の西川晋二は、導入前に「レジ係の仕事を来店客に肩代わりさせるのか」と批判があったと打ち明ける。だが、顧客の利便性が高まったことで、今や売り上げの4割がこのレジカートによるものだという。

 客はお金を支払うのが目的で店に来ているのではない。レジの行列だけでなく、慣れていないレジ係が商品バーコードのスキャンに手間取ればイライラするし、間違えないよう代金を支払うのも釣り銭を確認するのも決して楽しいことではない。

 だが、ITや人工知能(AI)を駆使することで、こうした“ストレス源”の解消が可能になった。現金を使わない「キャッシュレス化」が進めばサービス業の現場は変わる。

 ストレスフリー

 “近未来”の小売店として話題を集めるのが、米電子商取引(EC)大手アマゾン・ドット・コムがシアトルの本社ビルで運営するレジなしコンビニエンスストア「アマゾン・ゴー」だ。ローソン社長の竹増(たけます)貞信は3月に視察。スマートフォンをゲートにかざして店内に入るとレジが全くないことに驚いたという。商品の陳列自体はコンビニと大差なかったが、ツナサラダやチキンサラダなど総額69ドル(約7600円)分を手に取って店外に出れば、アマゾンのアカウント(会員登録したクレジットカードや電子マネーなど)で支払いが自動終了した。

 「レジ待ちがなくストレスフリーな買い物ができた」。竹増はそう振り返る。それだけでなく、店内にごみ一つない質の高いサービスにも感心した。

 さらに進んだキャッシュレス決済を目指すのがNECだ。あらかじめ顔情報を事前登録し、店頭でカメラに映った人物の特徴点をAIが照合。手に取った商品も同時に割り出して、クレカやスマホを使わず、顔だけで支払いできる「顔パス決済」の仕組みを開発した。2019年度の事業化を目指す。

 カード大手のジェーシービー(JCB)も手のひらをかざすだけで支払いが完了する仕組みを開発。スマホやクレカでは盗難や不正利用の恐れがあるが、複製される恐れがない身体で本人確認する生体認証が普及すれば、文字通り「身一つ」で生活に困らないようになる。

 従業員の負担軽減

 最近はかばんの中に財布をしまったまま、スマホで買い物を済ませるという人も多いが、キャッシュレス化のメリットは顧客利便性の向上にとどまらない。

 外食大手ロイヤルHDが東京・日本橋馬喰町に開店した実験店「ギャザリング テーブル パントリー」は現金払いお断りの店だ。利用できるのはクレカと電子マネー、スマホによる2次元バーコード「QRコード」決済のみ。

 ただ、この店を作った動機は従業員の働き方改革にある。閉店後に現金を数える「レジ締め」作業をなくすことで拘束時間は40分短縮。レジの現金を銀行や夜間金庫へ運ぶ手間も省け、釣り銭準備の必要もない。

 ローソンが商品バーコードをスマホで読み取りその場で決済できる「スマホペイ」を実験的に導入した狙いも人手不足対策だ。深夜のレジ業務を削減できれば接客や店の清潔さといったサービスの質向上に人手を回す好循環が生まれる。

 ローソンの竹増は言う。

 「アマゾンとローソンが向かう方向は同じ。デジタルの力を最大限活用すれば、(高いレベルの)温かい接客ができるはずだ」=敬称略

 キャッシュレス化の波が日本にも押し寄せてきたが、日本のキャッシュレス決済比率は2割弱と諸外国に比べて遅れている。「キャッシュレス社会」は本当に到来するのか、激変する現場を追った。

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