20年以上前にイタリアの生活を始めた当初、ぼくはトリノに住んでいた。すぐ知り合ったイタリア人の友人たちにワインの里、アスティの丘の農家で行われるパーティに招待された。
フィアットのパンダのエンジンをブルンブルン回しながらワイディングロードを走り抜け、窓を開けたままナポリ民謡『オーソレミオ』を大きな声で歌う友人たちの姿に圧倒されまくった。運転する女の子はヒール・アンド・トゥを多用しながらカーブを次々とこなしていく。彼女に聞けば、ラリーの趣味があるわけではない。
ぼくの知る限り、日本ではよほど運転に強い関心ある人でないと、男性でさえギアとエンジン回転数をスムーズに合わせるヒール・アンド・トゥを使うことはなかった。イタリアではマニュアル車への拘りが強い理由も、ここで垣間見られた気がした。ドライブはイタリア人の血が騒ぐのだ。
かつては信号が青に変わる瞬間はレースのスタート風景さながらだった。オートマのクルマを見かけるのは稀もいいとこ。