アップルが提供するのはiPhoneというモノではなく、ユーザーが快適に生活するためのサービスを売っている。モノではなくユーザーが得る経験が肝で「サービスの質」が重要だと言われる所以だ。
しかしサービスの強調は、ただ単なる「モノからコト」への重心移動によるだけではないのだ。
イタリア人がよく語る。「俺たちはロボットじゃない」と。先端技術を利用したモノやマニュアルサービスに対してポツリと吐く。人を相手にするという当たり前のことを忘れた開発への警句だ。逆に言うと、そんなイタリア人に気に入られた先端技術やサービスは、市場に定着する兆候となる。
他人に自分の過去を覚えていてもらうのは嬉しい。が、今この瞬間に何をしたいかに対して的確に応じてくれる、それが客の満足度を高める。冒頭のエピソードに戻れば「今回もいつもの新聞でよろしいですか?」と聞かれたい。「日経新聞を用意しておきました」ではサービス側の満足で終わってしまうのだ。
過去のデータに基づいて「サプライズ」をひたすら投げ込むのがサービスではない。データをどれだけ積み上げても、客のリアルな姿は見えてこない。
客は常に「データにない今の自分」だ。
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ローカリゼーションマップとは? 異文化市場をモノのローカリゼーションレベルから理解するアプローチ。ビジネス企画を前進させるための異文化の分かり方だ。
安西洋之(あんざい ひろゆき) 上智大学文学部仏文科卒業。日本の自動車メーカーに勤務後、独立。ミラノ在住。ビジネスプランナーとしてデザインから文化論まで全方位で活動。今年は素材ビジネスやローカリゼーションマップのワークショップに注力。著書に『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』 共著に『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか? 世界で売れる商品の異文化対応力』。ローカリゼーションマップのフェイスブックのページ ブログ「さまざまなデザイン」 Twitterは@anzaih