タイとカンボジアの関係はもともと不安定で対立しやすいこともカンボジア人労働者の不安を増幅し、今回の大量帰国に拍車をかけた可能性もある。
例えば2003年には、タイ人女優が「アンコールワット遺跡はタイのものだった」と発言したという噂をきっかけに、カンボジア国内で猛烈な反タイ感情が広がった。プノンペンのタイ大使館やタイ系企業が焼き打ちに遭う事件まで発生した。この背景には、当時から出稼ぎ先のタイで搾取や差別に遭っていた若いカンボジア人労働者たちの怒りがあったともいわれる。国境のプレアビヒア寺院遺跡をめぐる対立は武力衝突にまで発展した。
カンボジア内務省によると、タイ国内のカンボジア人労働者は30万~40万人とみられている。建設現場や農業、漁業などでの単純労働が多く、13年にタイが1日当たりの最低賃金を全国一律300バーツに引き上げたことで、カンボジアからの労働者流入が加速した。
◆軍事政権を批判
カンボジア政府は「今回の混乱の責任はタイ側にある」と軍事政権を批判。国境にトラックやバスなど数百台を送り込み、越境する自国民を無料で故郷に帰らせている。一方で、「カンボジア国内でも労働者は不足しており、帰国したカンボジア人はタイでの経験を生かして祖国の経済発展に貢献してほしい」と呼びかけた。
しかし帰国労働者の中には「情勢が落ち着けばまたタイに戻りたい」と話す人も少なくない。タイ国内の建設現場にいた女性は「1日の賃金は9.5ドル(約970円)。カンボジアの2倍になる。またタイに戻らなくては、家族を支えることができない」とカンボジア地元紙に語った。(カンボジア月刊邦字誌「プノン」編集長 木村文)