◆厳しい財源捻出
法人税率引き下げには、主として2つの問題がある。第1に、税率1%の引き下げで約5000億円かかる減税財源を恒久的にいかに確保するかである。これに関しこれまで財政健全化の立場から、自民党税制調査会の野田毅委員長は繰り返し恒久財源の確保を主張し、首相と真っ向から対立する図式を取ってきた。黒田東彦(はるひこ)日銀総裁をはじめ財政再建の主張者が、これに加担している。だが、この議論の過程でいつものように首相周辺や財界筋から「成長すれば税収増が生じるのでこれを財源に充当すればよい」とする上げ潮派の見解も出ている。バブル崩壊後の世界に冠たる日本の財政赤字累増は、まさに恒久的な措置をとらずこの実現も不確実な財源先取り発想によるものであったことを忘れるべきでない。とすると政府税調が目下検討しているように、法人税の課税ベースの拡大(具体的には租税特別措置の縮小など)で税収を確保するのが欧州の前例もあり試みるべき方向だといえよう。
◆家計に不人気の政策
第2に、いったいこの法人税率引き下げは本当に成長戦略としての効果があるのかも検討せねばなるまい。まず税率引き下げで、狙い通りに国内投資が刺激されるか。企業は300兆円ともいわれる巨額な社内留保を抱え資金的にさしたる問題もない上に、すでに昨秋に即時償却という投資減税が実行されており、当面それで十分であろう。税率引き下げは屋上屋の感がする。更にこの法人税率引き下げが、海外企業の投資誘因となるのかも疑問が多い。政府税調の資料によれば、日本における投資阻害要因(外資系企業の声)の中で「法人税負担」は8番目に過ぎない。「日本市場の特殊性」や「用地の取得・賃金コスト」などの方が、重要であることは明らかである。