国際プロジェクトでリーダーシップを発揮するには、単に「よいアイデア」を持っているだけでは不十分だ。議論が暗礁に乗り上げたとき、対立する主張の良いところを取って、みんなが賛成できなくもない「落としどころ」を探る必要がある。それには、対立する両派の間で、右往左往するだけではうまくいかない。現状の問題点を正確に把握して、第3案を構築し、その確立に向けて静かに行動し、自分の技術と経験でそれを実証して見せる能力が必要だ。また、無視されがちな小国の不満も聞いて代弁する必要もある。本質的に重要な事項に関しては、万難を排して死守することも重要だ。
日本人は小さな島国で資源を分け合って暮らしてきた。日本の中で「勝者がすべてを取る」という論理では、社会がうまく回らないことを肌で知っている。だから、争いを好まず「喧嘩(けんか)両成敗」を心がけ、「落としどころ」を探し、平和裏に折り合いをつけるよう努力を惜しまない。
科学の世界だけではない。新興国の台頭など国際関係が複雑化する中で、圧倒的な軍事力を誇る超大国でも、それだけではリーダーシップを発揮できず、問題を解決できなくなっている。いわば「世界が日本化している」ともいえ、日本人が培ってきた特質が必要とされるのは当然のことかも知れない。
侍は「奉仕する者」という意味であるという。そんな「サムライ精神」を持った日本人は、今後ますます世界で活躍するに違いない。
◇
【プロフィル】戎崎俊一
えびすざき・としかず 独立行政法人理化学研究所戎崎計算宇宙物理研究室主任研究員 東大院天文学専門課程修了、理学博士。東大教養学部助教授などを経て、1995年より現職。専門は天体物理学、計算科学。