和歌山県有田市で収穫を待つミカンを手にする酒井能章さん=10月【拡大】
■オレンジと消費者の胃袋奪い合い
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の大筋合意で、最大32%の関税撤廃が示されたオレンジ。ミカンの国内消費が低迷する中、さらに価格が下がらないかと、ミカン農家は不安を募らせている。
最大産地の和歌山県。石垣で築かれた斜面に広がる段々畑で、収穫を待つ温州ミカンが色づいていた。有田市のミカン農家、酒井能章さん(41)はオレンジの関税撤廃について「味で負けるとは思わないが、オレンジにつられて価格が大幅に落ちれば、つぶれる農家も出てくる」と心配する。
ミカンは日当たりを良くするため傾斜地での栽培が多く、重機が入れない。収穫も手作業になる。一方、海外のオレンジ農家は、農薬を飛行機で散布したり、収穫も安価な労働者を使ったりして事業規模が大きい。価格では勝てない。
酒井さんは家族4人で約3ヘクタールを管理し、ミカンを年約70トン生産する。直接市場に卸し、年間の売り上げは1500万円超。経費を除いて残る収益は300万~400万円だ。土地集約や大規模経営で国際競争力を付けるという国の方針は「コメ中心の施策」と感じる。
全国のミカンの農家数は2010年の調査で約5万7000戸。食生活の変化もあり、オレンジの輸入自由化直前の1990年から6割減った。酒井さんの周辺も廃業者が増え、山から畑にアライグマやイノシシが下りてくることも。
和歌山県は11月、オレンジの関税撤廃で、ミカンの産出額が13年時点から10%、ハッサクなどは32%減るとの試算を発表した。輸出振興策も打ち出しているが、現状は計画を大きく下回る。県食品流通課は「果実の関税がそもそも低い国は多く、TPPを追い風に輸出が増えるというのは考えにくい」と話す。