7日、ミャンマーのヤンゴンに新しくオープンしたケンタッキーフライドチキンの店の前でたたずむ若者(ゲッティ=共同)【拡大】
今年末に実現する予定の地域統合構想、東南アジア諸国連合(ASEAN)共同体の柱となるASEAN経済共同体(AEC)は多難な船出となる。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)をはじめ多くの経済圏構想がアジアでひしめき、埋没しかねないためだ。世界全体の1割近い約6億の人口を抱える域内を単一の市場とする目標の実現も遠い。ASEAN加盟10カ国の首脳は、今月開催されたASEAN首脳会議でAECの年内発足を正式に宣言した。
◆実態はFTA
AECは、各国国内総生産(GDP)の合計が約2兆5700億ドル(約3164兆円)を抱えるASEAN域内を単一の市場、生産基地とし、経済を活性化させる構想。だが、畠山襄・元通商産業審議官は「共同体とはおこがましい」と冷ややかだ。
畠山氏によると、共同体は域内の関税を撤廃する関税同盟や市場の一体化を経て創設されるが、AECは関税撤廃すら完了しておらず、実態は関税同盟の前段の自由貿易協定(FTA)にとどまるからだ。
関税撤廃に加え、各種の手続きや数量規制などASEAN各国の非関税障壁も大きな問題だ。タイを拠点にアジアに日用品を輸出する日系企業の社長は「域内への輸出手続きの様式を共通化してほしい」と訴える。
「(市場参入を防ぐ障壁設置への)国内大企業の圧力に政府は弱い」(アジア開発銀行幹部)ため、問題は根深い。AECで障壁撤廃を話し合う場はなく、紛争処理の枠組み構築も今後の課題となっている。
規制撤廃をはじめとした自由化が遅れている要因の一つに域内の経済格差がある。ASEAN加盟10カ国の1人当たりGDPをみると、首位のシンガポールと最下位のミャンマーの差は50倍超。ミャンマーやカンボジア、ラオスといった下位国にとって「国内産業が発展しないうちに市場を開放するのはリスクを伴う」(外交筋)行為となる。