財務省の貿易統計などによると、日本の陶磁器製食器の輸出額は1984年に約1000億円だったが、安い人件費を武器に中国製が台頭、2014年で約70億円と大幅に減った。瑞浪市でも多くの企業が廃業した。
深山も約10年前に輸出がほぼゼロに。主力だった相手先ブランドによる生産(OEM)も減り、国内向け販売だけでは立ちゆかなくなるのは明らかだった。
転機は05年。販売会社を設立し、自らの足で海外の販路を拡大した。現在の最大の輸出先は米国。現地の茶専門店でポット1個とカップ4個をセット販売している。
付加価値の高さを伝える工夫も凝らす。ドイツで来年2月に開催される国際的見本市では、岐阜県白川町の製茶会社「菊之園」と協力して出展。自社の湯飲みと一緒に茶の産地が分かる写真や資料を展示し、海外で日本文化への理解が深まることを目指す。
ただ、関税が撤廃されても直ちに輸出が上向くかは不透明だ。陶磁器を手掛ける業者の多くは輸出量に合わせて従業員や設備を縮小させた。「輸出を増やすには生産体制の整備から始めないといけない」(愛知県の業界関係者)と、戸惑いの声も上がる。
後継者不足も課題だが、関税撤廃という追い風に乗って業績が伸びれば人材が集まり、さらに事業を拡大できる好循環が生まれる可能性がある。深山でデザイナーを務める松田絵里加さん(27)は「良い商品がより広まれば、陶磁器業界で働く若手世代が増えるかもしれない」と力を込めた。