
米大統領選で勝利宣言を終え、支持者と言葉を交わす共和党のトランプ氏=9日、ニューヨーク(ロイター)【拡大】
米大統領選にドナルド・トランプ氏が勝利した「トランプショック」は、安倍晋三政権の通商戦略にも波及しそうだ。同氏は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)からの離脱を宣言している。米国が新大統領就任までの「レームダック(死に体)議会」でTPP協定案を批准することに最後の望みをつなぐものの、批准できなければ巨大自由貿易協定(メガFTA)を日本の成長につなげる構想は振り出しに戻り、戦略の見直しを迫られる。
菅義偉官房長官は9日午後の記者会見で、「オバマ米大統領はTPP協定の年内の議会通過に向けて全力で取り組んでいると承知している」と述べ、オバマ政権を見守る考えを示した。
ただ、レームダック議会は来年1月3日の新議会開会までの短期決戦だ。米通商代表部(USTR)は選挙前から有力議員の説得に本腰を入れてきたが、議会内の根強い反対を乗り越えられる保証はない。
トランプ氏は、選挙で「米国第一主義」を掲げて自由貿易協定を見直す考えを示し、TPPについては「就任初日(来年1月20日)に離脱を発表する」と明言していた。
安倍政権は、TPPを「経済成長のエンジン」と位置付けてきた。TPPが発効すれば、世界全体のGDPの約4割を占める巨大経済圏が誕生することになり、域内の発展を取り込むことで人口減少に入った日本の経済成長を図ろうとしていたのだ。
TPP発効が見通せなくなると、日中韓FTAや、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)など他のメガFTAの重要性が高まる。しかし、「アジア太平洋地域で、米国の信頼感が低下し、中国の存在感が一層強まる」(経済産業省幹部)ことになりかねない。安倍政権は、経済の世界でも覇権主義を強める中国の対応に迫られそうだ。(田辺裕晶)