東京電力福島第1原発事故の対応費用について、民間シンクタンク「日本経済研究センター」(東京)が総額50兆~70兆円に上るとの試算結果をまとめた。費用が最大の場合、経済産業省が昨年12月に公表した試算約22兆円の3倍以上。センターは「国民負担が大幅増の恐れがあり、国の原子力政策の見直しが必要だ」と提言している。
政府は事故当初、対応費用は11兆円とみていた。しかし、東電の経営再建などを検討する経産省の有識者会合の試算で倍増する見通しとなり、賠償費用の一部は、電力小売り自由化で参入した電力会社(新電力)の電気料金に上乗せし、国民負担とする方針を打ち出した。
センターは大手企業や大学、自治体などが法人会員のメンバー。試算は特任研究員の鈴木達治郎長崎大教授らがまとめた。
経産省は対応費用を大きく3つに分類し「除染」6兆円、「廃炉(汚染水を含む)」8兆円、「賠償」8兆円と試算。これに対し、センターはそれぞれ30兆円、11兆~32兆円、8兆円とした。
除染に関しては、政府は福島県内で出る汚染土などの廃棄物が最大約2200万立方メートルと見込むが、県外の処分先のめどは立っておらず、対応費用は経産省試算に盛り込まれていない。センターは、最終処分費用を青森県六ケ所村の埋設施設で低レベル放射性廃棄物を処分する単価並み(1万トン当たり80億~190億円)として試算、総額30兆円と見積もった。
廃炉の費用については、原発の解体で出る全ての廃棄物のうち、炉内構造物や廃液などの放射性廃棄物は数%程度で、その他は線量が基準を超えない一般の廃棄物に当たるとしているが、第1原発については、炉心溶融した1~3号機は全て放射性廃棄物として処分すると仮定したため、対応費用が膨らんだ。
汚染水は、第1原発敷地内のタンクなどに約100万トンがたまっており、政府は処分方法を絞り込めていない。センターは、日本原子力研究開発機構などのデータを基に1トン当たりの処理費用を2000万円とし、全量分を20兆円とした。
基準以下に薄めて海洋放出した場合、20兆円は不要だが、地元漁業者への計3000億円の補償が経産省試算に上乗せされるため、賠償費用が8.3兆円になると試算した。