【高論卓説】歪められた上海ユダヤ難民記念館 (2/2ページ)

森山博之氏
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 またウィーンの国民党政府時代の領事であった何鳳山氏も数千人のユダヤ人に査証を発行し、同様にヨーロッパから上海に逃れてきている。さらにソ連からシベリア経由で満州国に入国を求めてきたユダヤ難民に対して、樋口季一郎陸軍中将も入国を認めている。

 このように幾つかのルートが存在したにもかかわらず、中国人の何鳳山氏のみにスポットライトを当て、日本に関してもユダヤ難民に対し、苦痛を与えたという負の面のみが強調された展示に変わってしまっている。以前は何鳳山氏の写真と並んで展示されていた杉原千畝氏の写真がなくなる一方で、何鳳山氏の銅像が展示館の入り口に新設されているという具合である。

 日本は確かに43年にユダヤ人を指定地域に移動・隔離政策を取ったが、それは一般外国人同様に居留区を制限したものであり、ナチス・ドイツのような人種隔離政策とは異なるものである。

 記念館は外国人旅行客の観光ルートにもなっている。筆者が訪れたときには、中国の小学生が課外授業のような形で大勢訪れていた。このような偏った展示は時間経過とともに既成事実化する懸念がある。日本政府は国際社会全体への正確な情報発信を行いながら、中国に対して修正を粘り強く働きかけていくべきだ。

 今月29日は日中国交正常化45周年にあたるが、10月18日に第19回中国共産党大会を控えており、こちらの行事も盛大に行われることはなさそうである。

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【プロフィル】森山博之

 もりやま・ひろゆき 早大卒。旭化成広報室、同社北京事務所長(2007年7月~13年3月)などを経て、14年から遼寧中旭智業、旭リサーチセンター主幹研究員。59歳。大阪府出身。