まずは水深だ。比較的浅い海底熱水鉱床でも水深700~2000メートル。マンガン団塊やレアアース堆積物は4000~6000メートル、コバルトリッチクラストは800~2400メートルと深海の底に眠る。採掘機器は海底熱水鉱床でも大切だが、さらに高い耐圧性や密閉性が求められる。
また、不純物と有用鉱物を分離する「選鉱」の手法が海中鉱物と陸上鉱物では異なるため、海中鉱物に適した選鉱方法を確立する必要がある。
国内ではほとんどの鉱山が閉鎖され、かつては鉱山とともにあった選鉱施設がなくなったことも障害の一つだ。
「登山に例えるなら、ようやく装備が整って、登山口に立てたところ」
経産省幹部はこう打ち明ける。すべての海底資源を有効利用できたとしても、数十年先の未来になりそうだ。
ただ、国産資源を持つことは、「生き馬の目を抜く資源外交」(関係者)において、有力な交渉材料となる。
22年9月に尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖で海上保安庁の巡視船と中国漁船が衝突。海保が船長を逮捕すると、中国のレアアース対日輸出が停滞するなど関係が悪化した。当時、日本のメーカーは、レアアースを使わないモーターの開発を目指したが、国産資源を持てば正面切って対抗できるようになるかもしれない。
今回の実験成功を受け、経産省幹部は「何はともあれ、1つの壁を越えた感はある」と安堵(あんど)の表情を浮かべる。
「海底資源開発の転機になる」と太鼓判を押すのはJOGMECの辻本崇史理事だ。
日本は資源のない国ではない。光が届かない海の底に、日本の希望の光が眠っていると受けとめたい。(産経新聞経済本部 高木克聡)