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現実に即した視点とは何か。まず、米国に目を転じればよい。米連邦準備制度理事会(FRB)は2008年9月のリーマン・ショック後、3次にわたる量的緩和政策をとり、短期間でドルの発行量を2倍、3倍と急増させた。ドル資金は金融市場に注入され、当初は紙くずになりかけた住宅ローン証券化商品の相場を支え、次には米国債相場を押し上げて長期金利を下げ、最終的に株価を押し上げた。個人や年金の金融資産の多くは株式関連であり、株価の上昇は家計の懐をよくする。企業は株式市場で有利な条件で設備資金を調達できる。FRBがカネを大量発行すれば実需が好転し、物価を押し上げ、日本のようなデフレに陥らずに済んだわけだ。もし、FRBが日銀理論に毒されていたら、とんでもないデフレ不況になって世界を巻き込んだはずだ。
日本では家計が保有する金融資産の大半は現預金で、株式関連資産の比率はわずかだ。企業も平成バブル崩壊に懲りて、株式を中心とする財テクはご法度だ。つまり、米国のような量的緩和の実物経済への波及効果はゼロではないとしてもかなり薄い。
異次元緩和の唯一と言ってもよい効果は円安だ。円安は企業収益をかさ上げし、株価を押し上げるのだが、株が上がっても上記の理由で家計消費が増えるとは限らない。円安で企業の輸出が増えるとGDPが好転するのだが、円安は断続的だし、先行きは不透明だから、企業は慎重で増えた収益を設備投資や雇用よりも、内部留保の積み増しに充当する。実需が増えないのだから、物価は上がらないのは当たり前だ。