□野村総合研究所(上海)・天野宏欣
2016年に始まった「特色小鎮」の認定・支援政策により、中国全土津々浦々で特徴ある町や村の地域開発計画の検討と、都市機能と産業機能を融合した開発資金の導入がまさに進もうとしている。地域産業のてこ入れに、公的資金を呼び水に民間資金を導入する、中国ならではの地域活性化が進もうとしている。
◆変わる産業園区
数年前に『だれも知らない建築のはなし』という、建築家たちのインタビューから構成されたドキュメンタリー映画を観賞した。映画の中で建築家の磯崎新氏が、1980年代からバブル期にかけての、世界の名だたる建築家たちが日本で新しい創作のチャレンジをしていた時代について振り返るシーンが印象に残っている。確かに日本のバブル期は、同映画で紹介されていたとがった建築家の作品に限らず、都市博跡地、リゾート、コンベンション、ウオーターフロントなど多種多様な面白い地域開発が花開いた時代であった。こういった勢いのある開発を実現できたのは、ひとえに資本の力であり、投下資本の拡大を見込んだ開発に向けた意思決定である。中国の不動産開発は、当局による過熱投資に対するコントロールがあるものの、まだこの資本拡大の時期にあり、政策的な制約がある中で開発を実現するためのさまざまな創意工夫がみられ、バブル期の日本に匹敵する、世界でも面白い不動産開発の市場になっている。
ここ数年で中国の産業園区、住宅地の開発は大きく変わってきた。「新常態」に入った中国経済のもとでは、過去のように大型産業園区が全国各地で整備される現象はなくなってきており、また、重厚長大産業からイノベーション主導産業への構造転換を進める政策基調から、産業園区が備えるべき機能も土地の広さや安さではなく、成長できる産業集積をいかに作り出せるかという、エリアのマネジメントがより重視されてきている。一方、日本でも多数報道されている地方都市のゴーストタウン化が問題になっていたり、住宅価格が上昇し続けていることが低所得者層の居住確保の障害になっていたりすることから、無秩序な投資用住宅開発は厳しく制限されており、実需に対応するための住宅の整備、低所得者層への安定的な住宅供給が住宅開発の基本的な方針となってきている。
このような環境変化の中で、開発投資事業を担っている地方政府や不動産開発デベロッパーも、産業の高度化やイノベーティブな産業集積と一体化したまちづくり、企業と政府とのパートナーシップ(PPP)のもとに進めるまちづくりなど、「産城融合」といわれる、産業機能と都市機能が融合された地域開発事業に集中してきている。この考え方は、都市・都市周辺部のような一定規模の産業集積適地に限らず、全国各地の小さな町、村へも「特色小鎮」政策の導入にともない広がっている。
「特色小鎮」とは、16年7月に住建部、国家発展改革委員会、財政部が連名で公布した政策で、20年までに全国で約1000カ所程度の特色ある活性化されたまちの育成を資金面で支援し形成することを目指し、まずは16年10月と2017年7月に計全国403カ所の認定先リストが公開された。
◆多様な資源を活用
歴史文化、伝統工芸、建築物群、産業集積など、日本同様中国でも地域にはさまざまな潜在的な観光・産業資源があり、これまで見向きもされなかったり価値を見いだされなかったりしてきたが、これらの地域への適切な資本投下を促すことで特色を浮かび上がらせ、観光産業をはじめ、地域の商業、物流、製造業を興し、居住環境が整備されることが特色小鎮政策の目的である。
今はまさにこの政策に沿って全国津々浦々のまちの政府や関係者が、わがまちの特色小鎮認定を目指し、デベロッパーや民間企業を巻き込んで地域のマスタープラン、開発計画、産業計画を作ろうとダイナミックに動いている時期である。
今後きっと多くの面白い特色小鎮開発事例が出て来るのと同時に、多くの失敗事例も生み出されると考えられるが、これまでの中国の不動産開発市場同様、競争、淘汰(とうた)と規制の過程を経ながら、中国ならではの市町村活性化モデルが確立していくだろう。
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【プロフィル】天野宏欣
あまの・ひろやす 九州大工卒。九州大学総合理工学研究科修士。2000年野村総合研究所入社、NRI上海、NRI台北などを経て、16年4月からNRI上海副総経理兼産業二部総監。42歳。台湾出身。