【アセアニア経済】シンガポール、枯れぬ水ビジネス

シンガポール観光名所のマリーナ湾も、湾口がせき止められて淡水化され、同国15番目の貯水池となっている
シンガポール観光名所のマリーナ湾も、湾口がせき止められて淡水化され、同国15番目の貯水池となっている【拡大】

 ■日系企業も新たな“水源”発掘へ

 赤道直下の都市国家シンガポール。近年は金融センターとしても世界からヒトとカネを引きつけているが、経済成長継続のボトルネックとなりかねないのが水資源の制約だ。東京23区とほぼ同じ国土に570万人が暮らす人口密度に加え、育成に注力する先端産業の工業用水需要はうなぎ上りだ。周囲を海に囲まれながら、世界のトップレベルを走る同国の水関連ビジネスは、深刻な水不足に直面する途上国などの海外市場にも展開を始めている。アジア市場を視野に、多くの日系企業もシンガポールで、新たな“水源”の発掘に動き出している。

 ◆ニッチの強み期待

 チャンギ国際空港近くの下水再生施設に16日、日本企業幹部ら24人が視察に訪れた。下水を飲用可能な水準に再生するシンガポール初の処理施設として、2003年から稼働し、東レの逆浸透幕などが使われている。再生水は現地で「ニューウオーター」と呼ばれ、主にウエハー(集積回路の基板)工場や発電所などで超純水として利用される。現在は同様の施設が国内に5カ所あり、同国の水需要の3割超を賄う。

 視察者からは「水道料金がとても安いが、コストをどこまで含んでいるのか」と質問が上がった。月40立方メートル以下と使用量が少ない家庭向けで、1立方メートル当たり1.61シンガポール(S)ドル(約135円、税込み)。水関連の行政を一手に担う公共事業庁(PUB)の案内役は「メンテナンス費を含め全製造コストを転嫁している。国土が狭く、最新技術を使った効率的なインフラ投資が可能なため、低価格を実現している」と胸を張った。

 施設を視察したのは、日本貿易振興機構(JETRO)がシンガポールで開いた、商談会の参加者だ。水・環境市場の販路開拓を目的にした初の試みで、PUBの協力を得た17日の商談会では、日系企業23社の約60人が、現地企業35社と、計156件の商談を行った。

 参加企業の一社で、電線販売などを手掛けるシバタ(東京都新宿区)は、金属イオン吸着剤などの新技術の採用を売り込んだ。

 担当者は「日本の水処理市場は成熟しており、補助金も減少傾向だが、海外で認められれば一気に販路を広げることも可能だ」と意気込む。国内顧客のメッキ工場などが海外移転している現状も背中を押す。

 また、集合住宅の給排水管管理などを行うオアシスソリューション(東京都豊島区)は、昨年4月にシンガポールに進出。これまで現地では手つかずだった分野で、日本で培った技術とノウハウを広げる。

 現地の業界団体、シンガポール水協会のタン会長がパートナーシップを期待するのは、まさにこうした「新技術」と「ニッチ分野」に強みを持つ日本企業だ。シンガポールに拠点を置く水関連の内外企業は、2006年の50社から180社に増え、うち日系も既に35社。栗田工業のように、現地に研究開発の新会社を設立した企業もあり、競争は激しい。

 ◆輸入依存に危うさ

 それでもシンガポールの水関連ビジネスが魅力的なのは、1965年の独立以来、水の自給自足が、同国の安全保障にとり、最大の課題だからだ。現在も水の供給能力の半分は、隣国マレーシア南部ジョホール州からの輸入に依存するが、1962年に結んだ供給契約の期限は2061年に切れ、更新の有無は未定だ。

 政府の危機感は、国土の3分の2の降雨を集める17カ所の貯水池整備などに加え、水関連産業の育成にもつながった。2008年からは世界最大規模の水関連ビジネス展示会などを行う「シンガポール国際水週間(SIWW)」を隔年開催(今年は7月)している。同国を代表するハイフラックスは1989年の創設で、水処理用の浸透膜販売を皮切りに事業を拡大し、3億Sドルの売上高(2014年度)のうち、国内は72%、中国が15%、中東・アフリカが7%と海外比率を高めている。

 PUBは今月15日、水需要が2060年までに倍増し、家庭以外の水需要が現在の55%から70%に高まるとして、(1)水処理のエネルギー効率(2)工業用水の効率利用(3)水関連事業運営の無人化技術、の3事業で、3000万Sドルの提案公募(RFP)の実施を発表した。シンガポールで長年の実績を誇る計測機器大手の横河電機は「現地の顧客企業から一緒にアジアで水事業を手掛けてほしいとの要請を受け」、JETROの商談会に参加した。「政策方針が明確なシンガポールは、将来を見据えて新市場に投資ができる場所だ」と意気込みを示している。(シンガポール 吉村英輝)

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 ■シンガポールの水需給(現状/2060年(目標))

 ≪需要≫

 家庭用   45%/30% 

 産業用   55%/70%

 ≪供給≫

 海水淡水化 10%/25%

 下水再生  30%/55%

 雨の貯水  国土の66%/国土の90%

 輸入    非公表/0%?