中国が現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の拠点の一つと位置付けるカンボジアに、中国からヒトとカネの“波”が押し寄せている。海浜リゾートで不動産バブルが生じる一方、立ち退きを迫られる住民は「どうしようもない」とため息をつく。
◆地価が6倍に
首都プノンペンから南西に約200キロのシアヌークビルは、美しい海岸で知られるカンボジア有数のリゾート都市だ。経済関係者によると、市内の賃貸物件の賃料は2年前の2~5倍に急上昇、イ・ソクレン市長は「市庁舎周辺の地価はこの数年で6倍になった」と話す。中国企業の進出に伴い、土地と住宅の需要が増加したためだ。
大型船が停泊できる深水港や国際空港を備える物流の要衝でもあるシアヌークビル。将来性に着目した中国企業の投資は、習近平国家主席が2016年10月にカンボジアを訪問した直後から急増した。中国人ビジネスマン、技術者らが流入し「市内の賃貸物件の借り手の75%は中国系が占める」(不動産業者)。
中国系の高層ホテル、マンションの建設も相次ぐ。人口7万ほどの市に中国人観光客を当て込んだカジノ約30軒が軒を連ねる。国内や欧州の観光客が静かな海岸で休暇を過ごしたリゾートは、中国人が大挙して訪れてギャンブルなどを楽しむ行楽地に変貌した。
中国にとって、シアヌークビルはタイ湾やマラッカ海峡への進出の足掛かりとなる戦略地点。インフラ整備などに多額の支援をつぎ込み、企業進出を後押しする。
100社以上の進出企業を抱える中国系の「シアヌークビル経済特区」の曹建江社長は「将来は国際的な産業都市になるだろう。未来は明るい」と語る。シアヌークビル州のユン・ミン知事も「中国企業の進出で雇用が増え、地価も上がった。産業は好況に沸いている」と強調する。
◆再開発や家賃高騰
一方で、中国がもたらした好景気は貧困層を苦境に追い込んでいる。再開発や家賃高騰に伴い、立ち退きを迫られる住民が相次ぐ。
市中心部で飲食店を営むソー・ポリーさんは「1月に地主から立ち退きを求められた。中国の会社が再開発するという。私たちにはどうしようもない」。営業を続けられるのはあと数週間。「車での移動販売に変えるしかない。家賃の高くなったシアヌークビルに貧しい人が借りられるスペースはない」
ユン・ミン知事は「中国の進出に80~85%の市民は満足している」と強調。「適切に開発が進み、人々が豊かになるなら『第2のマカオ』でも『第2のテキサス』でも構わない」。イ・ソクレン市長は断言した。(シアヌークビル 共同)
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【用語解説】中国・カンボジア関係
1958年に国交樹立。中国は70年代後半、知識人らを虐殺したポル・ポト政権を支援した。近年は多額の援助や投資を背景にさらに緊密化。カンボジアは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の一部加盟国が中国と対立する南シナ海問題で「当事国による問題解決」を掲げる中国を支持している。2016年には両国による初の合同軍事演習を実施、安全保障面での協力も深まっている。(シアヌークビル 共同)