ハーブ栽培を学校運営費に カンボジア、アンコール遺跡群近くの中学校

バタフライピーを使って商品化したハーブティー茶葉。鮮やかな青い茶になる(西口三千恵さん提供)
バタフライピーを使って商品化したハーブティー茶葉。鮮やかな青い茶になる(西口三千恵さん提供)【拡大】

  • バイヨン中学で生徒たちにバタフライピーの花の干し方を指導する西口三千恵さん(右)=カンボジア西北部シエムレアプ州(木村文撮影)

 カンボジアの西北部シエムレアプ州にあるバイヨン中学校で、生徒たちがハーブティーの原料となる植物を育てて販売している。同国内の日系企業が委託した事業で、売り上げは学校の運営費となる。カンボジアの学校には政府から十分な補助金が与えられていない。バイヨン中学も運営費のほとんどを寄付に頼っている。売り上げはまだわずかだが、環境や農業、カンボジアの伝統医療を学ぶ機会もかねた「菜園ビジネス」として注目される。

 ◆NGOの支援で開校

 バイヨン中学校は世界遺産アンコール遺跡群に近いアンコールクラウ村で2013年に開校した。創立5年の新しい中学校だ。

 この地域では、アンコール遺跡群を訪れる外国人観光客が年々増えてホテルや旅行業など観光関連産業は順調に発展しているが、農業や工業など他産業への経済波及効果がなかなか得られない。遺跡の補修や修復を担う石工たちが多く暮らすアンコールクラウ村も貧しく、村には小学校までしかなかった。

 アンコール遺跡修復事業に派遣された日本人専門家たちは、作業現場で働いていたアンコールクラウ村の作業員たちと交流するなかで、遺跡観光の恩恵を受けない村の貧しさに気づいた。なかでも、カンボジア難民として13歳のときに日本に渡ったチア・ノルさんは、14年ぶりに1994年に遺跡修復チームの通訳・渉外として戻ってきて、故郷の現状に胸を痛めた。世界遺産のお膝元にあるアンコールクラウ村だが、小川にかかる橋もなく、急病人が命を落とすことさえあったという。

 チアさんたちは村人とともに、まず小川に橋をかけた。交流が深まると村内のインフラ整備や教育支援にも活動範囲が広がり、2005年には非政府組織のJSTを設立し、本格的な村落支援活動を始めた。その一環として、バイヨン中学校が設立された。JSTの創立メンバーで、チア・ノルさんの妻である小出陽子さんはこう振り返る。「村の子供たちに次に何が必要かと聞いたら、『中学校が欲しい』と言われた。当時、中学校は遠隔地にあり、通えない子供たちがたくさんいた。学びたいという気持ちを支えたいと、私たちが土地を提供し、学校をつくり、教育省に登録して正式な学校にした」

 初年度に1年生135人でスタートしたバイヨン中学は、現在、504人に増えた。しかし、小出さんによると、国からの補助金は、教員の給与のほかには生徒1人当たり年間わずか2ドル(約210円)。これではまともな学校運営ができない。そこでJSTは寄付を募るほか、村や学校を訪れる体験型ツアーを企画。その収入も学校経営の一助としている。

 ◆校庭で薬用植物

 ハーブを育てる菜園ビジネスは、新たな取り組みとして17年に学校の校庭で始まった。首都プノンペンを拠点に、カンボジア産の原料でハーブティーを製造・販売するローゼル・ストーンズ・クメールの西口三千恵代表が、学校にハーブ栽培の話を持ちかけた。

 西口さんは、カンボジア保健省国立伝統医療局の技術アドバイザーである高田忠典さんの助力を得て、インターネットで支援金を募るクラウドファンディングで実施した「学校薬草園プロジェクト」のノウハウを活用し、バイヨン中学の校庭でハイビスカスやバタフライピーなど、茶の原料になる薬用植物を育てることを提案した。育て方や加工の仕方などを指導し、製品化にこぎつけた。

 商品としての価値を保つためには、乾燥のさせ方など粘り強い指導が必要だ。西口さんは何度も中学に足を運び、先生や生徒たちに説明をしている。バイヨン中学のルー校長は「まだ始まったばかりだが、月20ドル以上の安定した売り上げを目指したい」と意欲的だ。

 ローゼルではバイヨン中学のほかにも、国内数カ所の小中学校に同じ取り組みを持ちかけている。ふだんは身近で何気なく見ていた植物が、付加価値をつけて商品になることを知るだけでなく、カンボジアの人々に受け継がれてきた伝統の知恵も次世代に伝えられる。西口さんは「学校だけでなく、地域の人たちにも同じ技術や知恵が伝わればいいと思っている」と目を輝かせた。(カンボジア月刊邦字誌「プノン」編集長 木村文)